3/5//2013  新着情報
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−RCC早春神楽を考える−2013RCC早春神楽にて

■ 今年で15回目の開催を迎えたRCC早春神楽共演大会は、広島市街中心部の劇場を舞台に、ハイクオリティな演出で神楽を楽しむことの出来る世界最高の神楽大会として知られている。

「スーパーカグラ」の登場から20年以上が経った今、神楽を取り巻く環境もさらに変化しつづけている中で、新たな取り組みや工夫を加えながらファンに愛され続けている。

<目的>

早春神楽は「五穀豊穣を寿ぐ、神々との祭典」という大会テーマにのっとり、「神楽そのものを見つめ直すとともに将来の在り方を模索し、更なる向上を目的とする」ことを目的としている。このように早春神楽は、神楽の持つ本来の意味を尊重しつつも、時代にあった神楽の姿を追い求め、挑戦を重ねる姿勢が見える。



<構成>

早春神楽は、2007年の第9回大会から三部構成(第一部「原点を見つめる」、第二部「伝統を受け継ぐ」、第三部「新たなる神楽への挑戦」)のスタイルになっている。演目数が10演目程度というのは、だいたい他の神楽大会でも同じであるが、わざわざ構成に区切りを設け、演目の配置に意味を持たせているのは早春神楽だけである。



 早春神楽では、各構成ごとに込められた意味や思いについての説明がなされる。また各演目が始まる前には、あらすじや演目の基となった歴史、時代背景などを説明するナレーションが流れる。これらは大会パンフレットにも記載されており、神楽を初めて観る人にも分かりやすく、また歴史に造形の深い客層までも満足させる内容になっている。



第一部「原点を見つめる」では、儀式舞や神楽の原点といわれる演目が一演目舞われる。第10回大会までは、「神降し」や「胴の口開け」、「羯鼓・切目」などの儀式舞が中心に舞われていた。第11回目(2009年)から今回までは神楽舞の原点とも言われる「天の岩戸」が上演されている。



第二部「伝統を受け継ぐ」では、古事記などに登場する神話を題材にした「旧舞」が3,4演目ほど舞われる。今回は、頼政(栗栖神楽団)、鍾馗(筏津神楽団)、八岐大蛇(大都神楽団)の3演目であった。



そして第三部「新たなる神楽への挑戦」では、「新舞」と「スーパーカグラ」とも呼ばれる演目が登場する。早春神楽の真骨頂はこの第三部に集約されていると言ってもいい。都市型劇場の大舞台装置(照明、音響、ワイヤーなど)をフル活用することで、郷土芸能の神楽を歌舞伎や大衆演劇にも負けない舞台芸術にまで高めることに成功している。

神楽団の熱のこもった舞と奏楽に加え、綺羅びやかでサプライズな演出の連続に客席からの拍手は鳴り止まない。会場全体が熱気につつまれるにしたがって、舞台と観客席が一体化していく。



<位置付け>

ここでは「奉納神楽(宮神楽)」と「広島・島根交流神楽−月一の舞い」との比較を通して「早春神楽」の位置づけを行う。



1)祭事性

「奉納神楽」の場合、秋の収穫を神に感謝することを名目に、氏子集団内部の結束やメンバー同士の再確認が本来的な目的となっている。神楽は祭りを構成する重要な要素であり、伝統的な規範に従って舞台(神楽殿)が整えられていく。

演目の種類や順番も決められている。先ずは、神楽を舞うための舞台を清め、神を迎えるための儀式舞が舞われる。こうして神を神楽殿にお迎えした後は、神と人とが共に楽しむ「能舞」に移っていく。ここでは神々を讃える古事記由来の演目を必ず盛り込まなければならない。



一方、「月一の舞い」と「早春神楽」では、こうした伝統的なしきたりや儀式舞は取り行われない。演者も観者も異なる集団や地域に属す人々が集まっているに過ぎないため、はなっから祭事としての役割や機能は期待されていない。匿名性の高い場所における神楽は、文化商品として消費されるだけの存在なのである。



2)選択性

「奉納神楽」の場合、祭り(神楽)全体を通して、神への感謝と氏子同士の確認と結束力を高めるというテーマが存在する。演じられる演目もそれぞれに意味があり、順序も重要である。主催者側も観る側も伝統的な規範に拘束されているため、選択の余地(自由度)はかなり低い。



一方、「早春神楽」と「月一の舞い」は「奉納神楽」に比べ、極めて自由度が高い。主催者が神楽団や演目を自由に選択することができるだけでなく、観客も好みの神楽団や演目をチョイスして適当に鑑賞することができるからである。「早春神楽」と「月一の舞い」は、好きなものを好きなように楽しめるという点で無差別的な消費スタイルの興行神楽である。



ただし、「月一の舞い」は、「早春神楽」よりも統一されたコンセプトにもとづいて編集されているという側面において、やや自由度は低めである。

「月一の舞い」は、各月ごとにテーマを設定し、それに見合った演目をチョイスするという、いわばコンピレーションCDアルバムのような存在といえる。たとえば、2013年2月は「平氏一族」をテーマに上演された。天慶の乱をモチーフに平貞盛が登場する「天慶新皇記」から始まり、最後は平氏滅亡の壇ノ浦で終わるという具合である。



このように「奉納神楽」「月一の舞い」「早春神楽」では、それぞれ期待されている役割や果たしている機能が異なることが分かる。そのうちでも「早春神楽」は、開催場所もさることながら、自由度が高いという点において都市的な要素が大きい。この伝統的な規範や束縛から開放された場で演じられる「神楽」ゆえに、全く新しい「芸術作品」となることができたのである。

 


NPO広島神楽芸術研究所事務局次長 高崎 義幸