大塚神楽団「土蜘蛛」。平安時代、権力争いに敗れ、行き所を無くした人々は、北方に都を一望できる大和国(奈良県)葛城山にこもり、世を恨みながらも密かに復讐の機会を待っていたのです。そういった人々は卑しみを込めて「土蜘蛛」などと呼ばれて忌み嫌われていました。この演目では土蜘蛛という妖怪が、都の守り、源頼光に襲い掛かってきます。登場する鬼は一人だけですが、頼光に毒薬を渡して様子を伺ったり、返り討ちにあって怒りをあらわにするなど、存在感たっぷり。そんな土蜘蛛も、追ってきた四天王と蜘蛛切丸の威徳によってついに退治されます。戦いを前に「汝ら両名、我が命までも取ろうとやぁ~!?」と叫ぶ土蜘蛛。二人の四天王に切り付けられ、その最期も他の演目にはない独特の演出。鬼にされてしまった者のはかなさを感じることができたのではないでしょうか。
続いて東山神楽団「伊服岐山」は日本武尊の最後の物語。近江国(滋賀県)にある伊服岐山の大鬼神がその相手となります。しかし鬼たちは最初に登場したときはまだ人の姿です。しかし白い髪を振り乱して実に勢いのある舞。そして細かく機敏に動く頭の動作は、それだけで迫力たっぷりです。ついに始まった合戦、その途中でようやく鬼へと変化。さらにテンポが激しくなっていき、最後に待ちに待った大鬼が登場。大きな面はあの大江山の鬼人、酒呑童子を思い起こさせるようです。諸説によると、酒呑童子の住処が実は伊吹山だったり、伊吹童子と呼ばれる酒好きの鬼がいたというものもあります。おまけに酒呑童子も伊吹童子も、伝教大師によって比叡山を追い出されていたり…。なにかとつながりがあるこの二人、いろいろ伝説を調べてみると面白いかもしれません。
最後は原田神楽団「紅葉狩」。その舞台はもちろん、信州信濃国(長野県)の戸隠山。その昔、手力男命が岩戸を開いた時に投げ捨てた大岩がこの戸隠山となったというエピソードをはじめ、鬼女紅葉の物語などとにかく伝説には事欠かない、まさに今大会の絶好の舞台といえるでしょう。山を彩るたくさんの紅葉を連想させる、艶やかな衣装と鬼女たちの舞。ゆったりと流れる舞から一転、扇子をたたみ辺りをうかがうように低い姿勢で構える動作などはまさにこの演目ならではの面白さ。他にも風情を感じる場面や言葉などが随所に見られます。そして今回もチャンチキの神様が大活躍。舞が白熱してくるとドンドン前に出てこられ、最後に大鬼が退治された瞬間は、自分もやられたかのように後ろにひっくり返るという神業を披露。大いに会場を沸かせてくださいました。
以上「魔境の鬼伝説」の報告でした。こうして見てみると同じ「山を舞台にした鬼」の物語でも様々なものがありますね!みなさんはどの演目が印象に残ったでしょうか。来年も何かテーマにそってこの「神楽スペシャル」が開催されると思いますが、今からその内容が楽しみですね。
2009,07,14 Tue 21:33
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