三田井地区神楽保存会「御神躰(ごしんたい)の舞」。こちらの地方では聞きなれない演目ですが、その内容はイザナギとイザナミの二人の神様がお酒を作り、それを飲んで仲良くするというもの。別名「国生みの舞」とも言われ、夫婦円満を象徴する神楽なんだそうです。さてその二人の神様、お客さんともふれあう場面が。男の神様であるイザナギが、客席で女性のお客さんを見つけて親しそうな素振りをすると、それを見つけた妻のイザナミが駆け寄って引き戻してみたり。またその反対にイザナミも男性のお客さんにくっついて…というように、前半はあまり円満な感じではなかったかもしれません(笑)。 そして舞殿で仲良くお酒を作り始めるのですが、この二人の神様はみなさんご存知のように、この日本という国を作られた神様として有名です。天浮橋(あめのうきはし)に立たれた二人は、天沼矛(あめのぬぼこ)で混沌とした大地をかき混ぜ、その矛から滴り落ちたものが島となった…という国生みの神話。二人で仲良く作ったお酒を飲み合い、抱擁している姿は天下泰平を表しているようにも見えました。そして最後は会場のみなさんにモチまきのサービス。あまりにも広い会場なので、ゲットされた方は少なかったと思いますが、心温まる演目でした。
そして次は石見神楽です。後野神楽社中「五神」は、物語の内容としては先ほどの「御神躰の舞」に続いていると言えます。それぞれ四方、四季を司る四人の王子たちに、末っ子の埴安大王は領地を分けて欲しいと頼みます。願いは聞き入れられず戦になりますが、所務分けの翁が現れて戦を止めさせ、そして四季に土用を作り、四方に中央を作って埴安大王に分け与えます。そしてこの国が平和に治まるようになったという物語。少し難しいのですが、いわゆる陰陽五行思想を表した神楽で、いろんな要素が詰まったいわば大作とも言える内容です。内容が難しい上に、言葉も多いので「面白い」と感じるのはなかなか容易ではないかもしれません。しかし中盤には埴安大王の使いが現れ、浜田弁で領地を分けて欲しいと訴えます。マジメな内容と思いきや、「ちっと分けてや。」「やらりゃ~せん!」といったやり取りが繰り広げられ、思わず笑ってしまった方も多かったようです。またそれぞれ五色の鎧の衣装で、息をもつかせぬ激しい合戦は、この演目の大きな見どころ。五人が入り乱れる中で途中刀がキラリと輝く瞬間など、誰にでも面白いと感じさせてくれるのではないでしょうか。それでもやはり、最大の見どころは言葉の面白さであると思います。四神と埴安の畳み掛けるような言葉の応酬や、合戦を前に一気に捲くし立てる場面は、この演目ならではの面白さ。以前、神楽研究コラムでこの「五神」を特集しましたので、興味のある方はどうぞご覧ください。
http://www.npo-hiroshima.jp/blogn/index.php?e=108
そして有東木芸能保存会「恵比寿大黒の舞」。これは神楽ファンのみなさんにお馴染みの演目ですね。鯛を釣ろうと悪戦奮闘する恵比寿様と大黒様。広島では普通に広島弁でしゃべったりして客席を沸かせたりという内容も時々見受けられますが、こちらは言葉は一切なし。その代わり、実にわかりやすい身振り手振りで面白さを伝えてくださいました。また、広島ではガラクタを釣り上げたりしてなかなか鯛がかからないという演出が馴染み深いと思いますが、こちらの恵比寿様は最初から見事に大鯛を釣り上げられました。そしてもう一度!と糸を垂れているところに、なにやら背後から怪しい者が忍び寄ってきます。よく見るとそれは狐で、釣り上げた鯛を狙っているのです。そして恵比寿様が見事二匹目の鯛を釣り上げますが、跳ね上がる鯛を掴み損ね、そこを狐が待ってましたと言わんばかりにさっと鯛を奪って逃げていきました。いったん落ち込むものの再び挑戦しようとする恵比寿様、大黒様の姿、そしてこの展開に、思わず笑顔になられた方も多かったことでしょう。そしてまたもや鯛を釣り上げてめでたしめでたし。最後には静岡県特産のわさびとお茶がモチまきのようにまかれ、中には席を立って取りに行かれるお客さんもおられました。
最後は津浪神楽団「鍾馗」。素戔鳴(すさのお)命と大疫神、登場するこの二つの役が実に対照的で、そこがこの演目の見どころでもあります。ゆったりと、どっしりと。舞殿に現れた素戔鳴命は淡々と一人舞を繰り広げていきます。低い姿勢から高い姿勢へなめらかな動きを見せたかと思えば、楽に合わせてキレのある動き。緩急の効いた舞をしっかりと見せてくださいました。そして一方の大疫神。幕から地をなめるように低い体勢で登場。素戔鳴命に威嚇されると「ゴソゴソゴソ…」という音が聞こえてきそうな動きで引っ込みます。見た目といい、動きといい、近づいたら本当に病気にかかってしまいそうな印象すら受けますね(笑)。そんな大疫神を前に一歩も引かない素戔鳴命。茅の輪をかざして「どこからかかっていこうか」と構える姿勢は、安易な表現かもしれませんが本当に「カッコいい」です。そしてクライマックス、茅の輪によって苦しめられる大疫神、長い髪の毛を振り乱し、最後の最後まで不気味さを漂わせていました。登場人物や展開が少ないので地味かもしれませんが、対照的な役を完璧に舞い切った舞手さんの技量、素晴らしかったですね。見ている途中は休むことなく力が入りっぱなしといった感じで、舞台に集中させていただきました。
以上、「全国神楽フェスティバル」の最終日の模様を少しだけお伝えしました。さて芸北地域では大雪に見舞われているところもありますが、今週末は「月一の舞」が開催されます。「チャリの技」という珍しい企画ですので、どうぞみなさん千代田開発センターにお越しください。
http://www.npo-kagura.jp/contents/2009-kouiki-kagura/index.html
(画像は主催者の許可を得て撮影および掲載しております。 撮影 yuk☆kiiさん)
2010,01,14 Thu 19:31
新着コメント
nanさん、コメントありがとうございます。
見に行けなかった方のためにも、できるだけ上演の様子がわかるように書いているつもりです。
お褒めの言葉、嬉しく思います。
またコメントお願いします☆
見に行けなかった方のためにも、できるだけ上演の様子がわかるように書いているつもりです。
お褒めの言葉、嬉しく思います。
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| 特派員Y | EMAIL | URL | 10/02/03 21:30 | sDlCJhvw |
この公演みにいけなかったのでためになりました!
ありがとうございます!
ありがとうございます!
| nan | EMAIL | URL | 10/02/03 09:30 | TbAzEWsM |