5月29日は美土里町の神楽門前湯治村神楽ドームでさつき選抜2010が行われました。最近はぐずついた天気が続いていましたが、この日は絶好の神楽日和となり、多くの神楽ファンのみなさんが楽しまれたようです。それでは受賞団体を中心にご紹介します。
新舞の部優勝は横田神楽団「紅葉狩」。ファンのみなさんもよくご存知の通り、数々の競演大会で実績を残されている横田神楽団さん。今回も期待以上の素晴らしい上演を披露してくださいました。ではその強さの秘訣とでも言いましょうか、良い所はどこなんだろうと、改めてじっくりと拝見させていただきました。そして一つ気づいたのは、舞の丁寧さということです。一つ一つの動きが丁寧なのはもちろん、舞から舞へと移るわずかな動作も無駄がなく、隅々まで行き届いたというような印象を受けました。それは神も姫も、そして荒々しい鬼の舞でさえも同じ。雑な動きがないんですよね。さらにそれがスピード感溢れる合戦でも抜かりないのがすごいところ。とってもしんどいはずなのにそんなことを微塵も感じさせない舞手さんの姿。舞の持つ美しさに多くの方が感動を覚えられたことと思います。
新舞の部準優勝は原田神楽団「土蜘蛛」。声援の大きさでは優勝の横田神楽団さんにヒケをとらないくらいで、会場の盛り上がりを感じました。そんな中、まずは病にかかった源頼光が登場。「大江山」などとは違い、威勢の良さではなく落ち着いた感じの舞です。そしてその頼光を狙う土蜘蛛の精魂。しとやかに静かに舞いながら襲い掛かる時を伺います。ドライアイスが立ち込め、奏楽が盛り上がったところで面の速変わり。本当に一瞬の出来事で実に速かったですね!もちろん客席からはひときわ大きな声援と拍手が。その応援を味方に一気に頼光に襲い掛かりますが、ここで土蜘蛛が勝つわけにはいきません(笑)。危機に動じない頼光は宝刀を持って逆に切り付けます。傷を負った土蜘蛛は住処へと逃げ帰りますが、鬼棒を激しく叩いて悔しさを爆発させたり、片足で舞台を回ってみたりと見せ場を作ります。ここでもお客さんの大きな声援があり、「土蜘蛛」という演目の通り、インパクトある主役を見せてくださいました。
旧舞の部の優勝は筏津神楽団「天の岩戸」。いかにも旧舞らしい、伝統を感じさせる演目で、その良さをみなさんもじっくりご覧になったのではないでしょうか。登場する神様たちの個性的な舞。そしてついリズムにのってしまう心地よい奏楽。合戦などはありませんが、起承転結がしっかりしていて、岩戸を開く瞬間に向かって一つになっていく感覚が感じられました。そして何より印象的だったのが、その岩戸を開いた後、兒屋根命と太玉命の二人だけが舞を納めるというところ。天照大神を中心に、四人の神様が喜びの舞を舞うというのはお馴染みですが、その後に二人残って舞うんですよね。島根県の矢上地方に、この筏津さんと同じ展開で舞う神楽団があるのですが、筏津さんの地元である大朝地域の神楽はまさにこの矢上系と言われるもの。おそらく100年以上前に伝わったと思われますが、現在もその形を変えずにこうして多くの方に見て楽しんでもらえるということ。伝統芸能である神楽の醍醐味ですね。
旧舞の部準優勝は堀神楽団「羅生門」。旧舞の部で「羅生門」というと珍しい感じがしますが、初めてご覧になった方は「こういうのもあるのか」と興味津々になったはず。まずは渡辺綱と坂田金時の二人が、いわゆる山県舞の六調子のテンポで舞っていきます。そしてその後、茨木童子の化身が老婆の姿で現れ、姫を襲います。衣装と面を素早く変えるという演出もあり、次に何が起こるのかと目が離せません。そしてついに姫を捕らえた化身は、持っていた傘を開きます。すると傘からクモの糸が飛び出し、完全に姫を囲んでしまいます。「おぉ~」という客席からの歓声、しかし次の瞬間、その傘からモクモクと煙が。立て続けに起こる見事な演出にさらに大きな歓声と拍手が起こりました。後半は鬼の姿となった茨木童子が登場、「塵倫」などと同じように幕からそっと外の様子を伺います。「羅生門」と言われれば確かにそうですが、初めて見たかのような新鮮な感覚でした。
特別賞は高猿神楽団「神奈備(かんなび)」。紀元前90年代ごろ、第10代崇神(すじん)天皇が当時流行った疫病を鎮めたという物語。こちらも珍しい内容となっていましたね。まずは崇神天皇、そしてそのお供として登場する意富多泥古(おおたたねこ)が舞を披露。派手な衣装ではなく、儀式舞などで見かける地味なもので、役柄をしっかり考えられているように感じました。そして疫病を表した大疫神が二人登場。大疫神と言えば「鍾馗」ですが、その面もよく似た感じのもので、物語がよくわからなかった方にとっても「きっと悪い病気の鬼なんだな」とおわかりいただけたことと思います。前半は二人の神、最初は落ち着いたものでしたが大疫神に立ち向かう場面では一気に激しくなるなど、緩急の効いた舞を見せていただきました。後半は大疫神の不気味な感じのする舞、すごく特徴的でしたね。個人的にも初めて拝見したので、非常に興味深い上演でした。
そしてもう一つご紹介するのは田尾組神楽団「十羅刹女」。広島の団体で「十羅刹女」というのが珍しいと思い、ピックアップさせていただきました。旧芸北町の神楽団ということで、ゆったりした六調子のお囃子、どっしりとした山県舞でまずは十羅姫が登場。鈴と矛を持って柔らかな舞を披露。そしてパンフレットの案内にもありましたが、なんと明治27年に作られたという鬼幕が使用され、その後ろから彦羽根が現れました。「塵倫」などと同じように幕の右から、左からと出たり入ったり。そして十羅姫がいなくなって一人で舞う場面では、その幕をぐるぐる巻きにしたり、持っていた薙刀を頭上でクルクル回したりという舞もあり、とても印象的でした。対する十羅姫のほうも、合戦の時に太鼓の上に上がって様子を伺うという舞を見せてくださいました。一対一ということで、展開も少なく派手な感じもありませんが、最後まで引き込まれるような熱演だったと思います。
以上、さつき選抜2010の報告でした。春の神楽シーズン真っ盛りといった感じで、今週末も多くのイベントがあるようですね。ファンのみなさん、しっかり楽しんでくださいね!
新舞の部優勝は横田神楽団「紅葉狩」。ファンのみなさんもよくご存知の通り、数々の競演大会で実績を残されている横田神楽団さん。今回も期待以上の素晴らしい上演を披露してくださいました。ではその強さの秘訣とでも言いましょうか、良い所はどこなんだろうと、改めてじっくりと拝見させていただきました。そして一つ気づいたのは、舞の丁寧さということです。一つ一つの動きが丁寧なのはもちろん、舞から舞へと移るわずかな動作も無駄がなく、隅々まで行き届いたというような印象を受けました。それは神も姫も、そして荒々しい鬼の舞でさえも同じ。雑な動きがないんですよね。さらにそれがスピード感溢れる合戦でも抜かりないのがすごいところ。とってもしんどいはずなのにそんなことを微塵も感じさせない舞手さんの姿。舞の持つ美しさに多くの方が感動を覚えられたことと思います。
新舞の部準優勝は原田神楽団「土蜘蛛」。声援の大きさでは優勝の横田神楽団さんにヒケをとらないくらいで、会場の盛り上がりを感じました。そんな中、まずは病にかかった源頼光が登場。「大江山」などとは違い、威勢の良さではなく落ち着いた感じの舞です。そしてその頼光を狙う土蜘蛛の精魂。しとやかに静かに舞いながら襲い掛かる時を伺います。ドライアイスが立ち込め、奏楽が盛り上がったところで面の速変わり。本当に一瞬の出来事で実に速かったですね!もちろん客席からはひときわ大きな声援と拍手が。その応援を味方に一気に頼光に襲い掛かりますが、ここで土蜘蛛が勝つわけにはいきません(笑)。危機に動じない頼光は宝刀を持って逆に切り付けます。傷を負った土蜘蛛は住処へと逃げ帰りますが、鬼棒を激しく叩いて悔しさを爆発させたり、片足で舞台を回ってみたりと見せ場を作ります。ここでもお客さんの大きな声援があり、「土蜘蛛」という演目の通り、インパクトある主役を見せてくださいました。
旧舞の部の優勝は筏津神楽団「天の岩戸」。いかにも旧舞らしい、伝統を感じさせる演目で、その良さをみなさんもじっくりご覧になったのではないでしょうか。登場する神様たちの個性的な舞。そしてついリズムにのってしまう心地よい奏楽。合戦などはありませんが、起承転結がしっかりしていて、岩戸を開く瞬間に向かって一つになっていく感覚が感じられました。そして何より印象的だったのが、その岩戸を開いた後、兒屋根命と太玉命の二人だけが舞を納めるというところ。天照大神を中心に、四人の神様が喜びの舞を舞うというのはお馴染みですが、その後に二人残って舞うんですよね。島根県の矢上地方に、この筏津さんと同じ展開で舞う神楽団があるのですが、筏津さんの地元である大朝地域の神楽はまさにこの矢上系と言われるもの。おそらく100年以上前に伝わったと思われますが、現在もその形を変えずにこうして多くの方に見て楽しんでもらえるということ。伝統芸能である神楽の醍醐味ですね。
旧舞の部準優勝は堀神楽団「羅生門」。旧舞の部で「羅生門」というと珍しい感じがしますが、初めてご覧になった方は「こういうのもあるのか」と興味津々になったはず。まずは渡辺綱と坂田金時の二人が、いわゆる山県舞の六調子のテンポで舞っていきます。そしてその後、茨木童子の化身が老婆の姿で現れ、姫を襲います。衣装と面を素早く変えるという演出もあり、次に何が起こるのかと目が離せません。そしてついに姫を捕らえた化身は、持っていた傘を開きます。すると傘からクモの糸が飛び出し、完全に姫を囲んでしまいます。「おぉ~」という客席からの歓声、しかし次の瞬間、その傘からモクモクと煙が。立て続けに起こる見事な演出にさらに大きな歓声と拍手が起こりました。後半は鬼の姿となった茨木童子が登場、「塵倫」などと同じように幕からそっと外の様子を伺います。「羅生門」と言われれば確かにそうですが、初めて見たかのような新鮮な感覚でした。
特別賞は高猿神楽団「神奈備(かんなび)」。紀元前90年代ごろ、第10代崇神(すじん)天皇が当時流行った疫病を鎮めたという物語。こちらも珍しい内容となっていましたね。まずは崇神天皇、そしてそのお供として登場する意富多泥古(おおたたねこ)が舞を披露。派手な衣装ではなく、儀式舞などで見かける地味なもので、役柄をしっかり考えられているように感じました。そして疫病を表した大疫神が二人登場。大疫神と言えば「鍾馗」ですが、その面もよく似た感じのもので、物語がよくわからなかった方にとっても「きっと悪い病気の鬼なんだな」とおわかりいただけたことと思います。前半は二人の神、最初は落ち着いたものでしたが大疫神に立ち向かう場面では一気に激しくなるなど、緩急の効いた舞を見せていただきました。後半は大疫神の不気味な感じのする舞、すごく特徴的でしたね。個人的にも初めて拝見したので、非常に興味深い上演でした。
そしてもう一つご紹介するのは田尾組神楽団「十羅刹女」。広島の団体で「十羅刹女」というのが珍しいと思い、ピックアップさせていただきました。旧芸北町の神楽団ということで、ゆったりした六調子のお囃子、どっしりとした山県舞でまずは十羅姫が登場。鈴と矛を持って柔らかな舞を披露。そしてパンフレットの案内にもありましたが、なんと明治27年に作られたという鬼幕が使用され、その後ろから彦羽根が現れました。「塵倫」などと同じように幕の右から、左からと出たり入ったり。そして十羅姫がいなくなって一人で舞う場面では、その幕をぐるぐる巻きにしたり、持っていた薙刀を頭上でクルクル回したりという舞もあり、とても印象的でした。対する十羅姫のほうも、合戦の時に太鼓の上に上がって様子を伺うという舞を見せてくださいました。一対一ということで、展開も少なく派手な感じもありませんが、最後まで引き込まれるような熱演だったと思います。
以上、さつき選抜2010の報告でした。春の神楽シーズン真っ盛りといった感じで、今週末も多くのイベントがあるようですね。ファンのみなさん、しっかり楽しんでくださいね!
2010,05,31 Mon 22:21
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