大塚神楽団「道成寺」は、現在の和歌山県が舞台となる演目です。恐ろしくも悲しい安珍と清姫の物語は、日高川で一つの大きな見せ場を迎えます。清姫から逃げようとする安珍は、船頭さんに船渡しをお願いするも断られてしまいます。ここのやり取りが、チャリ役の船頭さんによって面白おかしい場面になっており、ファンのみなさんも楽しみにされていたと思います。そして今回の船頭さんは急遽の代役だったそうで、安珍さんもいつも通りとはいかず、普段以上に苦戦されていたようです。終いには自分の来ていた衣装を、渡し賃として取られてしまいました。とっても珍しいものを見せていただきましたね(笑)。そしてその安珍に恋焦がれるあまり、大蛇となってしまった清姫。口から火を吹き、釣鐘ごと安珍を焼き殺してしまう場面はまさに壮絶。その後、我に返った清姫に残された絶望感。胸を締め付けられるような場面ですが、最後に二人が一緒に立つ一幕があり、そこに救いを見られた方も多かったことと思います。
続いて原田神楽団「土蜘蛛」。大和国、今の奈良県にある葛城山が舞台です。当時、大和国を一望できるこの葛城山には、都の勢力に従わない人が多く住みつき、「土蜘蛛」などと呼ばれ忌み嫌われていたそうです。そして神楽では、この土蜘蛛が都の守り、源頼光に襲い掛かります。長年たまった恨みを晴らそうとする、その土蜘蛛の感情が、舞手さんの迫真の演技によってこちらに伝わってきます。一瞬にして鬼の面へと変わり、蜘蛛の妖術で頼光に迫る辺り、なんだか土蜘蛛の方を応援してしまうような気持ちになります。しかし頼光の武勇によって返り討ちに遭い、土蜘蛛は住処の葛城山へと逃げ帰ります。それを追って、四天王の二人が岩屋へ切り込み、遂に最後の戦いが始まりました。もはやこれまでと死に物狂いで暴れる土蜘蛛も、蜘蛛切丸の威徳の前に敗れてしまいます。威勢の良いお囃子もあって、とても盛り上がる上演でした。
最後は中川戸神楽団「紅葉狩」。先ほどの「土蜘蛛」と同じように、鬼になるしかなかった、あるいは鬼にされてしまった人々の思いが込められた物語です。伝説の地を訪ねると、今まで見えてなかったものが見えてくると思います。この上演も見所はたくさんありますが、個人的には中盤の酒宴の場面に注目しました。美女に化けて平維茂らを酒に酔わそうとする紅葉たち。しかしそれを見抜いて酒を飲まなかった維茂。このだまし合いの展開が、見ている側をさらに物語にのめり込ませてくれるように感じます。その中で、舞いながら酒を注いだり、あるいは紅葉の舞を披露したりと、いろんな見所がたくさんあり、本当に豪華な感じがしますね。そして正体を見破られた鬼女たちが鬼に変わる場面、ここで舞と楽が一緒になって一つの頂点を迎えます。この演目ならではの多彩な仕掛けも、みなさんじっくりご覧になったことでしょう。
以上、7演目のご紹介でした。ホール神楽としての魅力はもちろん、さらに神楽について興味を深めることができたイベントだったように感じました。これから夏本番で、暑い日が続きそうですが、どうぞみなさん体調にはじゅうぶん注意されて、神楽を楽しんでください!
2011,07,21 Thu 21:30
新着コメント