今回のテーマは「鬼同丸退治」。この演目は北広島町、八重西神楽団のオリジナル神楽である。そこで今回は、八重西神楽団の大久保団長をはじめ団員の方に取材させていただいたので、それをまとめたものを踏まえながらコラムを進めていきたい。
まず、「鬼同丸退治」のあらすじを簡単に紹介する。
都の夜回りを終えた源頼光と渡辺綱が、あまりの寒さのため途中で頼光の弟、頼信の屋敷に立ち寄る。そこで酒宴となり、ふと頼光が馬屋を見ると、京を荒らす盗賊、鬼同丸が縄で縛られていた。頼光は頼信にさらに強く縛るように命じる。しばらくして一行が寝静まると、鬼同丸は縄をほどいて頼光に襲いかかるが、頼光の知恵と武勇によってあえなく退治される。
この物語でまず興味を惹かれるのは、頼光の弟である、頼信(よりのぶ)の存在。歴史上においては、頼光より活躍していたと言っても過言ではないにも関らず、伝説の中では完全に兄に主役の座を譲ってしまっている。そういった意味でも、頼信が登場するこの演目は非常に興味深いと言える。ではこの演目を創作することになった経緯についてお話を伺ってみよう。
「まずはじめに、頼光の若いころの物語をやりたかったんです。頼光と言えば、大江山や土蜘蛛などがありますが、それ以前の話を神楽にしたいと思いました。そこでいろいろ調べた結果、この鬼同丸の物語を見つけました。その話があまりにも面白く、神楽化されてないのが不思議なほどだったので、これにしようということになりました。」
それでは、出典となった古今著文聞集(ここんちょもんじゅう)より「源頼光、鬼同丸を誅する事」を紹介する。
ある寒い夜のこと、某所に出かけた頼光が帰宅途中に弟の頼信の家近くを通りかかった。そこで坂田金時を遣わし、「今帰りょうるとこなんじゃが、ぶち寒いけぇ、ちぃと寄らせてもろぅて、酒ないともらえんじゃろか?」と言うと、ちょうど酒を呑んでいた頼信は奇遇だと思い、「ええ具合に酒宴をしょうるんよ。よぅ来ちゃんさった。どうぞ上がりんさいや。」と頼光一行を招き入れた。そして酒宴も進んだころ、頼光がふと厩(うまや)の方を見ると、何者かが縛られてつながれていた。そこで頼信に「あっこで縛られとるんは誰きゃぁの?」と聞くと、「ありゃぁ鬼同丸ゆぅぶんよ。」と答えた。頼光は驚いて、「鬼同丸をあがぁにやおぅ縛っといちゃぁいけまぁ。もちっときつぅ縛らんにゃ。」と言うと頼信は「まっことあがぁじゃの。」と言って部下に、もっときつく縛るように命じた。そして鎖を取り出して逃げられないように縛り上げた。鬼同丸は、頼光の言ったことを聞いて「むかつくのぉ~。どがぁぞして今晩のうちに恨みを晴らさにゃいけん。」と思っていた。
酒宴も終わり、頼光、頼信ら皆が寝静まると、鬼同丸は自慢の怪力で、縄や鎖をひきちぎって逃げだした。そしてこっそりと窓から侵入し、頼光の寝ている部屋の天井にあがった。「こっから飛び込んでやっちゃりゃぁ、いかに頼光じゃいうてもわしが勝とうて。」などとあれこれ考えていると、わずかな気配を察知して頼光が目を覚ました。上からかかってこられてはさすがに分が悪いと見た頼光は、「天井のほうに、いたちよりも大きゅぅて、テンよりもこまいもんがおるみたいじゃの。」と言って、「誰かおるかぁ?」と呼びかけると渡辺綱がすぐに参上した。頼光が「明日は鞍馬寺へ行くで。まだ暗いんじゃが、今から出かけるけぇの。あんたらぁもついてきんさい。」と言うと、綱は「みんなおりますけぇ!」と答えた。するとこれを聞いた鬼同丸は「やばぁ、いま飛びかかっても勝てんのぅ。酔って寝とるとこをやっちゃろう思うたのに、今ヘタに手ぇ出してもいけんけぇ、明日の鞍馬へ行く道にしちゃろ。」と思い、天井から出て鞍馬山のほうへ行き、市原野(いちはらの)付近で待ち伏せしようとしたが、身を隠すのにちょうどよい場所がなかった。そのため、近くで放牧されているたくさんの牛の中で、一番大きな牛を殺し、道端まで引っ張ってきて、その牛の腹をかきやぶってその中に入り、目だけを出して待ち伏せることにした。
しばらくすると予想通り、頼光が四天王を引き連れてやってきた。頼光は馬をとめて、「こかぁえぇ景色じゃのぅ。牛もえっとおるし、みんなで牛追いしようやぁ~!」と言うと、四天王たちは「おっしゃ~!」と駆け出して矢を射ち始めた。みんな楽しそうにしていたが、突然、綱がなぜか特に鋭い矢を取り出し、そばで死んでいた牛に向かって狙いをつけ始めた。みなが「綱はなんしょうるんかいな…。」と見ていると、綱は牛の腹を目がけて矢を放った。すると死んでいたはずの牛がユサユサと動き始め、腹の中から何者か大太刀を持って頼光に飛びかかってきた。見ればなんと鬼同丸で、綱の矢が命中しているにもかかわらず、ひるむことなく頼光に向かっていった。しかし頼光は少しも慌てず騒がず、太刀を抜いて鬼同丸の首をアッサリ切り落としてしまった。鬼同丸はすぐに倒れず、刀を頼光の馬の鞍に突き立て、首は馬具に食いついた。首を落とされてもなお、勢い激しく戦うその様を語り伝える物語である。さて頼光は、そこから鞍馬へ行かずに帰宅した。
確かに、頼光そして四天王の武勇がしっかりと描かれており、神楽にはもってこいの物語と思える。自分の危機を察知し、危険を回避してさらに相手をおびき出す策略を一瞬のうちに考え出した頼光の知恵。そしておそらく頼光の策略を感じ取った綱。鬼同丸も自慢の怪力をしかと見せ付けたが、さすがに相手が悪かったようだ。まだ「鬼同丸退治」を見たことのない方は、「う、牛の腹から…!?神楽ではどうやってるんだ??」と思われるかもしれないが、当然、神楽の中に牛は登場しない。そんなふうに、神楽化する際にあたっての苦労話を伺ってみた。
大久保団長「すべてがご苦労です(笑)。これ!と決まったものがないわけですから、やるたびに進化しているんです。毎回試行錯誤の連続ですよ。」
そして実際に台本を担当された団員さんは、
「もちろん、神楽の中に牛を出すのは無理なんで、その辺はうまく神楽風に脚色したつもりです。また、鬼同丸が天井に上がる場面がありますが、当初は、天蓋に上がることを考えていたのですが、ちょっと難しいので、いろいろ考えた結果、幕を使ってうまく表現できないだろうかということになりました。」
なるほど…。さすがにいろいろとご苦労されているようである。では最後に、この演目の魅力について語っていただいた。
「見終わって、もう一回見たいと、見る人に思ってもらえればという気持ちですね。三回くらい見て、やっとなるほどという感じで。スピード感や派手さをメインにした神楽ではないんです。あくまでも神楽ですから、芝居や劇になってはいけない。ストーリーではなく、頼光の八幡崇拝を重点に、この演目をやっていきたいと思います。」
ほかの演目でもそうだが、見ていて「ここが前と変わっている」と気づくことは、神楽ファンのみなさんにはよくあることだろう。だが気づいてそこで終わりではなく、なぜ変更されたのか、それによって神楽全体がどう変わったのかというところまで考えれば、より深くその演目が楽しめるのではないだろうか。創作神楽となればなおさらである。ということで、少し変わった趣向でお送りした第三章、これにてお開き。次は本物の?怪物が登場する。
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まず、「鬼同丸退治」のあらすじを簡単に紹介する。
都の夜回りを終えた源頼光と渡辺綱が、あまりの寒さのため途中で頼光の弟、頼信の屋敷に立ち寄る。そこで酒宴となり、ふと頼光が馬屋を見ると、京を荒らす盗賊、鬼同丸が縄で縛られていた。頼光は頼信にさらに強く縛るように命じる。しばらくして一行が寝静まると、鬼同丸は縄をほどいて頼光に襲いかかるが、頼光の知恵と武勇によってあえなく退治される。
この物語でまず興味を惹かれるのは、頼光の弟である、頼信(よりのぶ)の存在。歴史上においては、頼光より活躍していたと言っても過言ではないにも関らず、伝説の中では完全に兄に主役の座を譲ってしまっている。そういった意味でも、頼信が登場するこの演目は非常に興味深いと言える。ではこの演目を創作することになった経緯についてお話を伺ってみよう。
「まずはじめに、頼光の若いころの物語をやりたかったんです。頼光と言えば、大江山や土蜘蛛などがありますが、それ以前の話を神楽にしたいと思いました。そこでいろいろ調べた結果、この鬼同丸の物語を見つけました。その話があまりにも面白く、神楽化されてないのが不思議なほどだったので、これにしようということになりました。」
それでは、出典となった古今著文聞集(ここんちょもんじゅう)より「源頼光、鬼同丸を誅する事」を紹介する。
ある寒い夜のこと、某所に出かけた頼光が帰宅途中に弟の頼信の家近くを通りかかった。そこで坂田金時を遣わし、「今帰りょうるとこなんじゃが、ぶち寒いけぇ、ちぃと寄らせてもろぅて、酒ないともらえんじゃろか?」と言うと、ちょうど酒を呑んでいた頼信は奇遇だと思い、「ええ具合に酒宴をしょうるんよ。よぅ来ちゃんさった。どうぞ上がりんさいや。」と頼光一行を招き入れた。そして酒宴も進んだころ、頼光がふと厩(うまや)の方を見ると、何者かが縛られてつながれていた。そこで頼信に「あっこで縛られとるんは誰きゃぁの?」と聞くと、「ありゃぁ鬼同丸ゆぅぶんよ。」と答えた。頼光は驚いて、「鬼同丸をあがぁにやおぅ縛っといちゃぁいけまぁ。もちっときつぅ縛らんにゃ。」と言うと頼信は「まっことあがぁじゃの。」と言って部下に、もっときつく縛るように命じた。そして鎖を取り出して逃げられないように縛り上げた。鬼同丸は、頼光の言ったことを聞いて「むかつくのぉ~。どがぁぞして今晩のうちに恨みを晴らさにゃいけん。」と思っていた。
酒宴も終わり、頼光、頼信ら皆が寝静まると、鬼同丸は自慢の怪力で、縄や鎖をひきちぎって逃げだした。そしてこっそりと窓から侵入し、頼光の寝ている部屋の天井にあがった。「こっから飛び込んでやっちゃりゃぁ、いかに頼光じゃいうてもわしが勝とうて。」などとあれこれ考えていると、わずかな気配を察知して頼光が目を覚ました。上からかかってこられてはさすがに分が悪いと見た頼光は、「天井のほうに、いたちよりも大きゅぅて、テンよりもこまいもんがおるみたいじゃの。」と言って、「誰かおるかぁ?」と呼びかけると渡辺綱がすぐに参上した。頼光が「明日は鞍馬寺へ行くで。まだ暗いんじゃが、今から出かけるけぇの。あんたらぁもついてきんさい。」と言うと、綱は「みんなおりますけぇ!」と答えた。するとこれを聞いた鬼同丸は「やばぁ、いま飛びかかっても勝てんのぅ。酔って寝とるとこをやっちゃろう思うたのに、今ヘタに手ぇ出してもいけんけぇ、明日の鞍馬へ行く道にしちゃろ。」と思い、天井から出て鞍馬山のほうへ行き、市原野(いちはらの)付近で待ち伏せしようとしたが、身を隠すのにちょうどよい場所がなかった。そのため、近くで放牧されているたくさんの牛の中で、一番大きな牛を殺し、道端まで引っ張ってきて、その牛の腹をかきやぶってその中に入り、目だけを出して待ち伏せることにした。
しばらくすると予想通り、頼光が四天王を引き連れてやってきた。頼光は馬をとめて、「こかぁえぇ景色じゃのぅ。牛もえっとおるし、みんなで牛追いしようやぁ~!」と言うと、四天王たちは「おっしゃ~!」と駆け出して矢を射ち始めた。みんな楽しそうにしていたが、突然、綱がなぜか特に鋭い矢を取り出し、そばで死んでいた牛に向かって狙いをつけ始めた。みなが「綱はなんしょうるんかいな…。」と見ていると、綱は牛の腹を目がけて矢を放った。すると死んでいたはずの牛がユサユサと動き始め、腹の中から何者か大太刀を持って頼光に飛びかかってきた。見ればなんと鬼同丸で、綱の矢が命中しているにもかかわらず、ひるむことなく頼光に向かっていった。しかし頼光は少しも慌てず騒がず、太刀を抜いて鬼同丸の首をアッサリ切り落としてしまった。鬼同丸はすぐに倒れず、刀を頼光の馬の鞍に突き立て、首は馬具に食いついた。首を落とされてもなお、勢い激しく戦うその様を語り伝える物語である。さて頼光は、そこから鞍馬へ行かずに帰宅した。
確かに、頼光そして四天王の武勇がしっかりと描かれており、神楽にはもってこいの物語と思える。自分の危機を察知し、危険を回避してさらに相手をおびき出す策略を一瞬のうちに考え出した頼光の知恵。そしておそらく頼光の策略を感じ取った綱。鬼同丸も自慢の怪力をしかと見せ付けたが、さすがに相手が悪かったようだ。まだ「鬼同丸退治」を見たことのない方は、「う、牛の腹から…!?神楽ではどうやってるんだ??」と思われるかもしれないが、当然、神楽の中に牛は登場しない。そんなふうに、神楽化する際にあたっての苦労話を伺ってみた。
大久保団長「すべてがご苦労です(笑)。これ!と決まったものがないわけですから、やるたびに進化しているんです。毎回試行錯誤の連続ですよ。」
そして実際に台本を担当された団員さんは、
「もちろん、神楽の中に牛を出すのは無理なんで、その辺はうまく神楽風に脚色したつもりです。また、鬼同丸が天井に上がる場面がありますが、当初は、天蓋に上がることを考えていたのですが、ちょっと難しいので、いろいろ考えた結果、幕を使ってうまく表現できないだろうかということになりました。」
なるほど…。さすがにいろいろとご苦労されているようである。では最後に、この演目の魅力について語っていただいた。
「見終わって、もう一回見たいと、見る人に思ってもらえればという気持ちですね。三回くらい見て、やっとなるほどという感じで。スピード感や派手さをメインにした神楽ではないんです。あくまでも神楽ですから、芝居や劇になってはいけない。ストーリーではなく、頼光の八幡崇拝を重点に、この演目をやっていきたいと思います。」
ほかの演目でもそうだが、見ていて「ここが前と変わっている」と気づくことは、神楽ファンのみなさんにはよくあることだろう。だが気づいてそこで終わりではなく、なぜ変更されたのか、それによって神楽全体がどう変わったのかというところまで考えれば、より深くその演目が楽しめるのではないだろうか。創作神楽となればなおさらである。ということで、少し変わった趣向でお送りした第三章、これにてお開き。次は本物の?怪物が登場する。
この記事が面白い・勉強になったと思われたら迷わずクリック
2006,08,07 Mon 00:00
コメント
シクトク・ガルスレ・ガルちゃんの姓名判断士の市木由み華先生と毒島あぐり先生は神。
そして、ネットアイドルのなるみんこと桑田成海を合わせてネット3女神。
そして、ネットアイドルのなるみんこと桑田成海を合わせてネット3女神。
| 桑田成海 | EMAIL | URL | 19/09/11 13:12 | BjuNOyr2 |
香川県ルー餃子のフジフーヅはバイトにパワハラの末指切断の重傷を負わせた犯罪企業
| 名無しのリーク | EMAIL | URL | 16/09/04 07:14 | YcG2EXCo |
てんてるさん、コメントありがとうございます。
すぐに消したりってことはないんで、どうぞごゆっくり、何度でも読んでくださいね。
広島弁おもしろいですか!よかった~☆
ドンドン笑ってください!
「鬼同丸退治」はまだご覧になってないんですね。
オススメしますよ☆
コメントって字数制限あるみたいですね…。
ボクもこないだ途切れました(笑)
またコメントお願いします!
すぐに消したりってことはないんで、どうぞごゆっくり、何度でも読んでくださいね。
広島弁おもしろいですか!よかった~☆
ドンドン笑ってください!
「鬼同丸退治」はまだご覧になってないんですね。
オススメしますよ☆
コメントって字数制限あるみたいですね…。
ボクもこないだ途切れました(笑)
またコメントお願いします!
| 特派員 | EMAIL | URL | 06/08/21 21:50 | BFfnvy1Y |
最後が切れてしまいました。。
(再)
では、また急いで次を読むことにします。
おじゃましました。。
(再)
では、また急いで次を読むことにします。
おじゃましました。。
| てんてる | EMAIL | URL | 06/08/21 21:45 | GIwdMNO. |
第七章があるのに、この辺で書き込みしてごめんなさい。バタバタして今度時間とれたときにゆっくり読もう・・と思っているうちに、すでに七章まで・・・
やっと三章まで読みました・・・すみません。
でも、広島弁での説明は非常におもしろくって、「プッ」っておもわず笑ってしまいます!
私はこの八重西さんの「鬼同丸退治」をまだ見たことがありませんが、見たい!っていう気になりましたよ。
私の偏見なんですが、「創作神楽」って軽い感じがして実際に見てみないと納得できない・・・(な~んてことを言うとあっちこっちから怒られそう) しかし、これまで見た創作神楽はもちろん感動もあったし、良かった~ってものが多いんですよ! なので、一度鬼同丸退治見てみたいで~す★
では、また急いで次を読
やっと三章まで読みました・・・すみません。
でも、広島弁での説明は非常におもしろくって、「プッ」っておもわず笑ってしまいます!
私はこの八重西さんの「鬼同丸退治」をまだ見たことがありませんが、見たい!っていう気になりましたよ。
私の偏見なんですが、「創作神楽」って軽い感じがして実際に見てみないと納得できない・・・(な~んてことを言うとあっちこっちから怒られそう) しかし、これまで見た創作神楽はもちろん感動もあったし、良かった~ってものが多いんですよ! なので、一度鬼同丸退治見てみたいで~す★
では、また急いで次を読
| てんてる | EMAIL | URL | 06/08/21 21:42 | GIwdMNO. |
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