では今大会の番外編をご紹介します。
一枚目の写真は、開場直後のロビーの風景。毎年のことではありますが、やはり今年はいつになくお客さんが多かったようです。神楽人気の高さを実感して少し嬉しくなりましたね!
さて続いて、上演開始直前のステージの写真。天蓋の飾りに、それぞれ五色のライトが当てられているところです。神楽の基本を成す大事な要素に、陰陽五行思想がありますが、これを天蓋や飾りで方位を示すことによってさらに意味が深まると思います。とりあえず上に何か飾っておけば、というものではないのです。他にもただあらすじを述べるだけではなく、その演目の核心をついてより深い意味に迫っているナレーションが、それぞれの上演の最初に入るのもこのイベントの特徴。神楽の上演を楽しむだけでなく、神楽についての勉強もできるわけです。
今回のプログラム、みなさんはどれがよかったと思われましたか?もちろん全部!という方がほとんどだと思いますが、客席の反応を見ていて、特に好評と感じたのはやはり都治社中「大江山」でしょうか。当然、初めて見られた方が多かったということもあると思います。頼光たちが最初に舞って、いったん幕内に下がるところでは大きな拍手があったんですよね。神が退場するときにこんな大きな反応があったのは、かなり珍しいことではないかと思いました。まるでファンのみなさんが、大江山に向かう頼光一行を拍手で送り出す都人になられたかのような感じさえ受けました。
そして、イベント終了後の一枚。先ほどまで素晴らしい熱演の数々が繰り広げられたステージも、ものの30分と経たないうちにご覧の通り。スタッフのみなさん、実に見事な仕事ぶりで撤収作業をしておられました。そんな中、「ケーブルがない!」という騒ぎもありましたが(笑)。本当にスタッフのみなさん、ありがとうございました。そしてお疲れ様でした!
最後にこのイベントを通して個人的に感じたことをまとめてみます。昨年、ある競演大会の総評で審査員の方が「神楽は神秘性のあるものがよいのではないか」ということを言われました。それ以来、ずっとその言葉を頭に浮かべているんですが、ファンのみなさんの中には「神楽の神秘性」と言われても、ピンと来ないという方もおられるかと思います。そこで自分が今まで勉強してきたうちの一つの例をご紹介します。
島根県で伝承されている「大元神楽(おおもとかぐら)」というものがあります。数年に一度、神職の方、近隣の神楽団・社中のみなさんが集まり、夕方からあくる朝までという長い時間をかけて行う神楽です。その大元神楽の目的というのが「神託(しんたく)」なんだそうです。神楽の最中、ある人が神がかりになり、今年の神楽の出来や、来年の豊凶、地域に起こるできごとなどのお告げがあるということです。神様が人の口を借りて話をする、ということなんですが、おそらくみなさんにわかには信じがたいと思います。もちろん自分も大元神楽すら見たことがなければ、神がかりの瞬間に立ち会ったこともありません。しかし実際にあることで、平成に入ってからも神がかりがあったことが記録されています。まさにこれこそ「神楽の神秘」ではないでしょうか。
さてそこで今回のイベントなんですが、ご覧になったみなさんが家に帰られて、ご家族や友人の方に「今日はこんなのを見たよ!」と感想を言われた際、その時思い浮かべるのはどんな場面でしょうか。幕内から光を浴びて、神々しい雰囲気の中現れた鈿女命。酒呑童子の妖術で絶体絶命の危機に陥った源頼光。稲妻が光る黒雲の中を自在に飛び回る塵倫。雷鳴が轟く真っ暗なステージの中、赤くらんらんと光っていた八岐大蛇の目。悲劇の物語の最後に救いを見た「道成寺」のエンディング。まるで何かに憑かれたかのように囃す手打ち鐘の方に、舞手が応え見る人も熱狂し、会場全体が揺れるようだった原田神楽団「紅葉狩」。ちょっと大げさですが、これらはみな神秘的な要素を持っているとは言えないでしょうか。
「神がかり」を起こす大元神楽と、まだ10年ほどの歴史しかないホール神楽を比べるというのは馬鹿げた話でしょう。「ホール神楽で神楽の神秘を語れるものか!」「あなたの言う神楽の神秘はその程度?」という声もあると思います。ですが、ホール神楽で神がかりが起こせないのと同じく、今回来られた千人を超すファンのみなさんが、お宮に行って神楽の神秘を見るのも無理な話。所(ところ)違えば舞も変わる、舞が違えば見る人も変わる。ただ、神楽の持つ神秘というものは、どこへ行っても変わらぬものであると思いたいのです。この「神秘性」こそ、芝居や演劇など他の芸能にはない、神楽の大きな特徴であり、神楽に関わる人全員が大事にしていかなければなりません。
また小難しいことを偉そうに書いてしまいましたが、これをきっかけに読まれた方が少しでも神楽について興味を深めていただければ幸いに思います。そしてファンのみなさん、いつまでもこの地域の神楽が伝承されるよう、応援をよろしくお願いします。
この記事が面白い・勉強になったと思われたら迷わずクリック
一枚目の写真は、開場直後のロビーの風景。毎年のことではありますが、やはり今年はいつになくお客さんが多かったようです。神楽人気の高さを実感して少し嬉しくなりましたね!
さて続いて、上演開始直前のステージの写真。天蓋の飾りに、それぞれ五色のライトが当てられているところです。神楽の基本を成す大事な要素に、陰陽五行思想がありますが、これを天蓋や飾りで方位を示すことによってさらに意味が深まると思います。とりあえず上に何か飾っておけば、というものではないのです。他にもただあらすじを述べるだけではなく、その演目の核心をついてより深い意味に迫っているナレーションが、それぞれの上演の最初に入るのもこのイベントの特徴。神楽の上演を楽しむだけでなく、神楽についての勉強もできるわけです。
今回のプログラム、みなさんはどれがよかったと思われましたか?もちろん全部!という方がほとんどだと思いますが、客席の反応を見ていて、特に好評と感じたのはやはり都治社中「大江山」でしょうか。当然、初めて見られた方が多かったということもあると思います。頼光たちが最初に舞って、いったん幕内に下がるところでは大きな拍手があったんですよね。神が退場するときにこんな大きな反応があったのは、かなり珍しいことではないかと思いました。まるでファンのみなさんが、大江山に向かう頼光一行を拍手で送り出す都人になられたかのような感じさえ受けました。
そして、イベント終了後の一枚。先ほどまで素晴らしい熱演の数々が繰り広げられたステージも、ものの30分と経たないうちにご覧の通り。スタッフのみなさん、実に見事な仕事ぶりで撤収作業をしておられました。そんな中、「ケーブルがない!」という騒ぎもありましたが(笑)。本当にスタッフのみなさん、ありがとうございました。そしてお疲れ様でした!
最後にこのイベントを通して個人的に感じたことをまとめてみます。昨年、ある競演大会の総評で審査員の方が「神楽は神秘性のあるものがよいのではないか」ということを言われました。それ以来、ずっとその言葉を頭に浮かべているんですが、ファンのみなさんの中には「神楽の神秘性」と言われても、ピンと来ないという方もおられるかと思います。そこで自分が今まで勉強してきたうちの一つの例をご紹介します。
島根県で伝承されている「大元神楽(おおもとかぐら)」というものがあります。数年に一度、神職の方、近隣の神楽団・社中のみなさんが集まり、夕方からあくる朝までという長い時間をかけて行う神楽です。その大元神楽の目的というのが「神託(しんたく)」なんだそうです。神楽の最中、ある人が神がかりになり、今年の神楽の出来や、来年の豊凶、地域に起こるできごとなどのお告げがあるということです。神様が人の口を借りて話をする、ということなんですが、おそらくみなさんにわかには信じがたいと思います。もちろん自分も大元神楽すら見たことがなければ、神がかりの瞬間に立ち会ったこともありません。しかし実際にあることで、平成に入ってからも神がかりがあったことが記録されています。まさにこれこそ「神楽の神秘」ではないでしょうか。
さてそこで今回のイベントなんですが、ご覧になったみなさんが家に帰られて、ご家族や友人の方に「今日はこんなのを見たよ!」と感想を言われた際、その時思い浮かべるのはどんな場面でしょうか。幕内から光を浴びて、神々しい雰囲気の中現れた鈿女命。酒呑童子の妖術で絶体絶命の危機に陥った源頼光。稲妻が光る黒雲の中を自在に飛び回る塵倫。雷鳴が轟く真っ暗なステージの中、赤くらんらんと光っていた八岐大蛇の目。悲劇の物語の最後に救いを見た「道成寺」のエンディング。まるで何かに憑かれたかのように囃す手打ち鐘の方に、舞手が応え見る人も熱狂し、会場全体が揺れるようだった原田神楽団「紅葉狩」。ちょっと大げさですが、これらはみな神秘的な要素を持っているとは言えないでしょうか。
「神がかり」を起こす大元神楽と、まだ10年ほどの歴史しかないホール神楽を比べるというのは馬鹿げた話でしょう。「ホール神楽で神楽の神秘を語れるものか!」「あなたの言う神楽の神秘はその程度?」という声もあると思います。ですが、ホール神楽で神がかりが起こせないのと同じく、今回来られた千人を超すファンのみなさんが、お宮に行って神楽の神秘を見るのも無理な話。所(ところ)違えば舞も変わる、舞が違えば見る人も変わる。ただ、神楽の持つ神秘というものは、どこへ行っても変わらぬものであると思いたいのです。この「神秘性」こそ、芝居や演劇など他の芸能にはない、神楽の大きな特徴であり、神楽に関わる人全員が大事にしていかなければなりません。
また小難しいことを偉そうに書いてしまいましたが、これをきっかけに読まれた方が少しでも神楽について興味を深めていただければ幸いに思います。そしてファンのみなさん、いつまでもこの地域の神楽が伝承されるよう、応援をよろしくお願いします。
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2008,02,27 Wed 20:43
コメント
きりんさん、コメントありがとうございます。
難しいことを書いてしまったので、あまりコメントがつかないかな…と思っていたのですが、とてもありがたいお言葉を頂いて嬉しく思います。
渾身のレポートになったのは、やはりそれだけこのイベントが素晴らしかったんでしょうね。
ぜひ来年は厚生年金会館にもお越しください!
難しいことを書いてしまったので、あまりコメントがつかないかな…と思っていたのですが、とてもありがたいお言葉を頂いて嬉しく思います。
渾身のレポートになったのは、やはりそれだけこのイベントが素晴らしかったんでしょうね。
ぜひ来年は厚生年金会館にもお越しください!
| 特派員 | EMAIL | URL | 08/03/04 19:18 | BFfnvy1Y |
初めまして。
里神楽としてその発展を大衆の手に委ねた瞬間から、密室で行う神事とは別なものに神楽はなってしまったのかもしれません。しかし大衆の力によってこそ、今なお廃れることなく神楽そのものが伝承されていることも事実で、誰にも分かりやすい形となって発展を続けていることにも大きな意義があると思います。
時代の大きな転換点にある、とされる今の時代に神楽人気が沸騰しているのは決して偶然ではないと思います。人智を超えた世界、まさしく神秘性に皆が無意識のうちに惹かれているのではないでしょうか。ホールという手段でその神秘性をより一層強く演出できているとすればそれもまた素晴らしいことだと思います。
このたびのRCCに行けなかったことがかなり悔やまれる渾身のレポートでした。次回のイベントを楽しみにしています。
里神楽としてその発展を大衆の手に委ねた瞬間から、密室で行う神事とは別なものに神楽はなってしまったのかもしれません。しかし大衆の力によってこそ、今なお廃れることなく神楽そのものが伝承されていることも事実で、誰にも分かりやすい形となって発展を続けていることにも大きな意義があると思います。
時代の大きな転換点にある、とされる今の時代に神楽人気が沸騰しているのは決して偶然ではないと思います。人智を超えた世界、まさしく神秘性に皆が無意識のうちに惹かれているのではないでしょうか。ホールという手段でその神秘性をより一層強く演出できているとすればそれもまた素晴らしいことだと思います。
このたびのRCCに行けなかったことがかなり悔やまれる渾身のレポートでした。次回のイベントを楽しみにしています。
| きりん | EMAIL | URL | 08/03/03 22:46 | MKTl4t5Q |
牙城君さん、コメントありがとうございます。
どれも素晴らしい上演でしたよ!!
DVDでしか見られないのは残念ですが、来年はぜひお越しください。
これからもどうぞよろしくお願いします。
どれも素晴らしい上演でしたよ!!
DVDでしか見られないのは残念ですが、来年はぜひお越しください。
これからもどうぞよろしくお願いします。
| 特派員 | EMAIL | URL | 08/03/01 11:51 | tTBCbx1A |
今晩はお疲れさまです!
今回はRCC早春神楽10周年おめでとうございます今回は行けなかったのですが、大塚さんの道明寺や
都治さんの大江山は楽しみだったんですが凄く残念でしたが、DVDを楽しみにしてます。これから広島も神楽大会が多くなりますが頑張ってください!
今回はRCC早春神楽10周年おめでとうございます今回は行けなかったのですが、大塚さんの道明寺や
都治さんの大江山は楽しみだったんですが凄く残念でしたが、DVDを楽しみにしてます。これから広島も神楽大会が多くなりますが頑張ってください!
| 牙城君 | EMAIL | URL | 08/02/27 23:24 | MZc4TY.E |
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