源頼光をはじめとする六人は、花園中納言の姫の教えどおり、川を上っていくと、大きな鉄の門にたどり着いた。鬼の門番たちが六人を見て「おぉ!?こりゃ珍しい。最近は人を食うとらんけぇ食いたいのぅ思よったところじゃ。飛んで火に入る夏の虫たぁこのことじゃの。よし、食お。」と頼光たちに飛び掛ってきた。が、その中の一匹の鬼が「こりゃ、あわてんさんな。こがぁに珍しいご馳走を、わしらぁだけで食うたらいけまぁ。先に大将に言わんにゃぁ。」と言った。鬼たちはそれはもっともだと、奥へ入って酒呑童子へこの事を伝えた。すると童子は「そりゃ珍しいわ。誰が来たんかいのうや。奥へ通しんさい。」と言うので、頼光たちは縁の上に通された。
しばらくすると生臭い風が吹き、雷鳴稲妻がとどろき、人間の姿をした酒呑童子が現れた。童子は「こかぁごうぎな山なんで。あんたら人間じゃろうが。天をかけってきたんかいの。聞いちゃるけぇ語りんさい。」と言った。頼光は「わしらは山伏の修行をしよるんじゃが、道に迷うてからここまで来てしもうたんよ。これも何かの縁じゃけぇ、今晩泊めてつかぁさいや。わしら酒を持ってきとるけぇご馳走しますで。」と答えた。童子はこれを聞いて頼光たちを部屋の中まで招きいれ、「へじゃぁまず、うちかたの酒を飲んでみんさいや。」と言い、手下の鬼に酒を持ってこさせた。見ると、たった今搾ったとみられる人間の生き血であり、童子はそれを頼光に差し出した。頼光は盃(さかずき)を受け取ると、何でもないようにさらりと飲み干した。続いて綱もさらりと飲み干した。童子は「酒のつまみがありゃせんか?」と言い、手下の鬼が持ってきたものは、これも今切ったとみられる人間の腕と足であり、それがまな板の上に乗っていた。頼光はこれを見て、腰につけていた小刀をするりと抜き、肉を一口大に切り取ってうまそうに食べた。これを見た綱も「まぁつまみまでもろうて、ありがたいことじゃのう。いただきます。」と同じく切り取ってうまそうに食べた。童子はこれを見て「あんたらぁは同じ人間の肉を食うんかいの。いなげなやっちゃのぅ。」と怪しんだので、すかさず頼光は「そがぁに思うてのは、よぅわかりますで。わしらぁ山伏の教えは、人様からいただいたものは、嫌と言わずにありがたくいただくいうもんじゃけぇ。へじゃけぇ何ゅぅもろうてもうれしゅぅ思いますてぇね。」と言って童子に礼をした。すると童子はあわてて頼光に礼を返し、「ありゃぁ、ホンマは食いとぅないもんを、食べんさい言うて出したんは、ホンマにわりかったのぅや。」と反省した。その時、頼光は例の酒を取り出し、「こりゃぁ都から持ってきた酒なんじゃが、童子さんにも差し上げますわぁ。」と、まずは自分で毒見をし、童子にすすめた。童子は盃を受け取り、さらりと飲み干した。その味は甘露(かんろ)のようで、言葉では例えようもないものだった。童子は上機嫌になり「うちかたのべっぴんさんにも飲ませてあぎょうてぇ。」と池田中納言と花園中納言の娘を呼び出した。
そして童子はあまりの嬉しさに、自分の身の上話を始めた。
「わしゃぁの、越後の生まれで山寺育ちなんよ。じゃが坊さんとケンカしての、いっぴゃぁ坊さんを殺したんじゃ。へぇで比叡(ひえい)の山ぁ行って、こけぇ住もう思うたら、伝教(でんきょう)いう坊さんが来てわしを追い出しやがった。やれんけぇこの山へ来たんじゃが、こんだぁ弘法大師いうパ~プ~に追い出された。へじゃけいっぺん高野山に行ったんじゃが、今はもう邪魔なんがおらんけぇ、こけぇ住み着いてからにぜいたくしよるんよ。都からべっぴんさんをさろぅたりのぅ、こげなごうぎな御殿を建てたりのぅ、ホンマ他にこがぁなぜいたくしよるやつぁおらんで。ただのぅ、一つやれんのは、都で有名な頼光いうぶちわりぃやつがおるんじゃわ。こいつは日本一つぇえんじゃ。ほいから頼光の部下に、定光・末武・公時・綱・保昌いうんがおって、こいつらもつぇえんじゃ。この六人だきゃぁの、ホンマ油断ならんで。どがぁなか言うたらの、こなぁだの春ん時に、わしの部下の茨木童子いうんを、都へ行ってこさぁた時に、あの綱と出おぅたんじゃわ。茨木童子が女に化けてからに、よ~にだまして、ひっつかまえたところを、綱のやつが片腕を切り落としやがった。ほじゃけわしゃ~よぅよぅ考えてから、腕を取り返して、今はもうせやなぃんで。あいつらがむかつくけぇ、わしゃ最近都へよぅ行かんのんよ。」
そう語ると、酒呑童子は頼光をじぃ~っとにらんで、「あんたらぁはいなげなのぅ。よう見りゃ、あんたは頼光じゃないかぁ!?その隣ゃぁ、茨木童子の腕を切りやがった綱じゃろうて。残る四人は定光・末武・公時・保昌じゃろうが、げにあがぁで。おい、手下の野郎ども、油断すなよ!しばいちゃろうでぇ~!」と叫び、立ち上がった。頼光はこれを見て、ここで見抜かれては大変と思い、少しも慌てず騒がず、からからと笑い飛ばした。「まぁ~、うれしぃ事を言いんさるのぅ。日本一つぇえやつに、山伏が似とりんさるか。その頼光いうぶにも、末武とかいうぶんも、いま初めて聞いたぁや。げに、そがんわりぃやつなら、はよぅわしらを食うちゃんさい。わしらぁは今童子さんに酒をもろうたりして情けをかけてもろうた。一つも命が惜しいとは思わんけ、どうぞどうぞ。」と顔色一つ変えずに言ってのけると、童子はすぐさま気を取り直し、「まぁそげなことを言うてか。よう考えたら、あいつらぁがここまではよぅ来んじゃろぅの。酒に酔うてしもうたけぇ、ついつい・・・。いやぁ、ホンマに酔うたわ。赤ぅなっとるんは酒のせぃじゃけ、鬼じゃなぁんで。」と言ってすっかり気を許した。そして周りの鬼たちにも酒を飲ませ、ついに鬼たちはみな酔いつぶれてしまった。童子は「おし、寝ようてぇ。山伏さん、また明日。」と寝床へ入って行った。
頼光はこれを見て、残された姫に近づき「わしらは鬼退治してあんたらを都に帰すために来たんじゃ。酒呑童子の寝床を教えてつかぁさい。」と言うと、姫は「まぁ~嬉しいのう!へじゃ案内しますけぇ、したくしんさい。」と答えた。六人は笈に入れてきた鎧兜などを素早く身に付け、討ち入りの準備を整えた。そして姫のあとに続き、童子の寝床へと急いだ。しかし童子の寝床は、巨大な鉄の扉で閉ざされており、とても入ることはできない。すきまから中をのぞくと、先ほどとはうってかわり、恐ろしい鬼の姿となった酒呑童子が寝ていた。身長は7mくらい、髪は赤く逆立ち、角が生え、手足は熊のようで、その姿は身の毛もよだつほどだった。そこへ、三社の神が現れ、六人に「よぅここまで来ちゃんさったのぅ。鬼の手足はわしらが鎖で縛っちゃったけ、よう動かんで。頼光は首を切りんさい。他のもんは胴体を切りまくりんさい。いたしゅぅないで。」と言って、鉄の扉を開いて消え失せた。頼光たちは神の加護に感謝しつつ、童子の寝床へと忍び込んだ。そして頼光は頭のほうに行き、刀をするりと抜いて「なまんだぶぅ三社の神さん、力を貸しちゃんさぃ~。」と三度礼をして、童子の首を一気に切り落とした。酒呑童子は目を覚まし、「何ゅぅするんなら~!ウソじゃぁなぁよったくせに、あんたらひきょうじゃのぉ!」と起き上がろうとしたが、手足は鎖で柱に繋がれているので、起きることができない。童子は怒り狂って大声で叫べば、その凄まじさは雷電稲妻、天地を揺るがすほどだった。他の五人は胴体を切り刻めば、首は高く舞い上がり、頼光めがけてただ一咬みと襲い掛かったが、三社の神の星兜のおかげで、頼光は傷一つ負う事はなかった。ついに酒呑童子は息絶え、六人は大庭へと出た。すると大勢の鬼がおり、その中で茨木童子が「大将をやりやがってからぁ~!」と襲い掛かってきた。綱がこれを見て「あんたぁどれほどのもんかよぅ知っとるで。今度こそ退治しちゃる!」と応戦した。しばらく互角に戦っていたが、ついに茨木童子が綱を押さえこんだ。頼光がこれを見て走りより、茨木童子の首をばっさりと切り落とした。そして六人は残った鬼たちをすべて討ち取った。
頼光は「よしゃ、こんだぁ姫さんを助けようで。」と捕らわれていた姫たちを連れ出し、都へ帰ろうとした。その時、辺りを見ると鬼たちに食われてしまった人間の骨が山となっていた。そしてその中に、手足を切り落とされた若い姫が、息も絶え絶えになっているのを見つけた。頼光が駆け寄るとそれが堀河中納言の娘で、「なんとまぁお姫さん、わしらは今鬼ゅぅみな退治して、都へ帰るとこなんじゃ。あんたも連れて帰っちゃるけぇ、もちぃとがんばりんさいよ。」と頼光が言うと姫は「そりゃぁ嬉しいことを言うてじゃの。へじゃがもうわたしゃぁダメじゃけぇ、形見に髪の毛を切って、両親に渡してつかぁさい。ちぃでに帰る前に、わたしにとどめをさしてつかぁさい。」と言った。頼光は「そりゃぁそうかもしれんが、へじゃ都へ帰ったら、すぐにも迎えをよこすけぇ、もちぃと待ちよりんさい。」と言い残し、一行は大江山を下った。ふもとの村で馬を調達し、姫たちを先に帰らせると、都では大騒ぎとなり、凱旋する頼光たちを迎えようと大勢の人が集まった。その中に池田中納言夫婦の姿もあり、ついに娘との再会を果たした。頼光は帝に鬼退治を報告すると、その褒美は限り無しだったと言う。これ以来、この国は平和が訪れ、いつまでも平安な世が続いたという。
大変長くなって申し訳ない。これでもかなり削ったのだが。注目すべき点はいくらでもあるが、中でも酒呑童子が、昼は人間の姿で、夜になると恐ろしい鬼の正体を現すという事。「童子」と言う名だけに、これは重要な点だと思うのだが、実際の神楽においてそういった演出をされているところは意外と少ない。安佐町の宮乃木神楽団が、立ち合いの寸前に面を変えるという事をされているが、非常に見事な演出で個人的にも好きな場面である。ついでにもう一つ言わせてもらうと、あの中川戸神楽団に、「スーパー神楽」として「大江山」を創作していただきたいと日頃から思っているのだが、中川戸さん、ファンのみなさん、いかがだろうか。
この物語は、頼光たちの武勇をメインにしつつ、神のご加護があってこそ、という印象も強調されている。この点は、この「大江山」に限ったことではなく、先に紹介した「葛城山」など、この時代に流行った物語に共通することである。この、「時代に流行った」もしくは「誰かが流行らせた」という観点から考えれば、このシリーズ最大のテーマである「なぜ、貴族風の生活をしていたはずの源頼光が、伝説の主役に仕立て上げられたのか」という事への一つの答えが見つかると思われる。さぁ、では次回はついに最終章。その謎に迫ろう。
(大森神楽団の写真提供:すな様)
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しばらくすると生臭い風が吹き、雷鳴稲妻がとどろき、人間の姿をした酒呑童子が現れた。童子は「こかぁごうぎな山なんで。あんたら人間じゃろうが。天をかけってきたんかいの。聞いちゃるけぇ語りんさい。」と言った。頼光は「わしらは山伏の修行をしよるんじゃが、道に迷うてからここまで来てしもうたんよ。これも何かの縁じゃけぇ、今晩泊めてつかぁさいや。わしら酒を持ってきとるけぇご馳走しますで。」と答えた。童子はこれを聞いて頼光たちを部屋の中まで招きいれ、「へじゃぁまず、うちかたの酒を飲んでみんさいや。」と言い、手下の鬼に酒を持ってこさせた。見ると、たった今搾ったとみられる人間の生き血であり、童子はそれを頼光に差し出した。頼光は盃(さかずき)を受け取ると、何でもないようにさらりと飲み干した。続いて綱もさらりと飲み干した。童子は「酒のつまみがありゃせんか?」と言い、手下の鬼が持ってきたものは、これも今切ったとみられる人間の腕と足であり、それがまな板の上に乗っていた。頼光はこれを見て、腰につけていた小刀をするりと抜き、肉を一口大に切り取ってうまそうに食べた。これを見た綱も「まぁつまみまでもろうて、ありがたいことじゃのう。いただきます。」と同じく切り取ってうまそうに食べた。童子はこれを見て「あんたらぁは同じ人間の肉を食うんかいの。いなげなやっちゃのぅ。」と怪しんだので、すかさず頼光は「そがぁに思うてのは、よぅわかりますで。わしらぁ山伏の教えは、人様からいただいたものは、嫌と言わずにありがたくいただくいうもんじゃけぇ。へじゃけぇ何ゅぅもろうてもうれしゅぅ思いますてぇね。」と言って童子に礼をした。すると童子はあわてて頼光に礼を返し、「ありゃぁ、ホンマは食いとぅないもんを、食べんさい言うて出したんは、ホンマにわりかったのぅや。」と反省した。その時、頼光は例の酒を取り出し、「こりゃぁ都から持ってきた酒なんじゃが、童子さんにも差し上げますわぁ。」と、まずは自分で毒見をし、童子にすすめた。童子は盃を受け取り、さらりと飲み干した。その味は甘露(かんろ)のようで、言葉では例えようもないものだった。童子は上機嫌になり「うちかたのべっぴんさんにも飲ませてあぎょうてぇ。」と池田中納言と花園中納言の娘を呼び出した。
そして童子はあまりの嬉しさに、自分の身の上話を始めた。
「わしゃぁの、越後の生まれで山寺育ちなんよ。じゃが坊さんとケンカしての、いっぴゃぁ坊さんを殺したんじゃ。へぇで比叡(ひえい)の山ぁ行って、こけぇ住もう思うたら、伝教(でんきょう)いう坊さんが来てわしを追い出しやがった。やれんけぇこの山へ来たんじゃが、こんだぁ弘法大師いうパ~プ~に追い出された。へじゃけいっぺん高野山に行ったんじゃが、今はもう邪魔なんがおらんけぇ、こけぇ住み着いてからにぜいたくしよるんよ。都からべっぴんさんをさろぅたりのぅ、こげなごうぎな御殿を建てたりのぅ、ホンマ他にこがぁなぜいたくしよるやつぁおらんで。ただのぅ、一つやれんのは、都で有名な頼光いうぶちわりぃやつがおるんじゃわ。こいつは日本一つぇえんじゃ。ほいから頼光の部下に、定光・末武・公時・綱・保昌いうんがおって、こいつらもつぇえんじゃ。この六人だきゃぁの、ホンマ油断ならんで。どがぁなか言うたらの、こなぁだの春ん時に、わしの部下の茨木童子いうんを、都へ行ってこさぁた時に、あの綱と出おぅたんじゃわ。茨木童子が女に化けてからに、よ~にだまして、ひっつかまえたところを、綱のやつが片腕を切り落としやがった。ほじゃけわしゃ~よぅよぅ考えてから、腕を取り返して、今はもうせやなぃんで。あいつらがむかつくけぇ、わしゃ最近都へよぅ行かんのんよ。」
そう語ると、酒呑童子は頼光をじぃ~っとにらんで、「あんたらぁはいなげなのぅ。よう見りゃ、あんたは頼光じゃないかぁ!?その隣ゃぁ、茨木童子の腕を切りやがった綱じゃろうて。残る四人は定光・末武・公時・保昌じゃろうが、げにあがぁで。おい、手下の野郎ども、油断すなよ!しばいちゃろうでぇ~!」と叫び、立ち上がった。頼光はこれを見て、ここで見抜かれては大変と思い、少しも慌てず騒がず、からからと笑い飛ばした。「まぁ~、うれしぃ事を言いんさるのぅ。日本一つぇえやつに、山伏が似とりんさるか。その頼光いうぶにも、末武とかいうぶんも、いま初めて聞いたぁや。げに、そがんわりぃやつなら、はよぅわしらを食うちゃんさい。わしらぁは今童子さんに酒をもろうたりして情けをかけてもろうた。一つも命が惜しいとは思わんけ、どうぞどうぞ。」と顔色一つ変えずに言ってのけると、童子はすぐさま気を取り直し、「まぁそげなことを言うてか。よう考えたら、あいつらぁがここまではよぅ来んじゃろぅの。酒に酔うてしもうたけぇ、ついつい・・・。いやぁ、ホンマに酔うたわ。赤ぅなっとるんは酒のせぃじゃけ、鬼じゃなぁんで。」と言ってすっかり気を許した。そして周りの鬼たちにも酒を飲ませ、ついに鬼たちはみな酔いつぶれてしまった。童子は「おし、寝ようてぇ。山伏さん、また明日。」と寝床へ入って行った。
頼光はこれを見て、残された姫に近づき「わしらは鬼退治してあんたらを都に帰すために来たんじゃ。酒呑童子の寝床を教えてつかぁさい。」と言うと、姫は「まぁ~嬉しいのう!へじゃ案内しますけぇ、したくしんさい。」と答えた。六人は笈に入れてきた鎧兜などを素早く身に付け、討ち入りの準備を整えた。そして姫のあとに続き、童子の寝床へと急いだ。しかし童子の寝床は、巨大な鉄の扉で閉ざされており、とても入ることはできない。すきまから中をのぞくと、先ほどとはうってかわり、恐ろしい鬼の姿となった酒呑童子が寝ていた。身長は7mくらい、髪は赤く逆立ち、角が生え、手足は熊のようで、その姿は身の毛もよだつほどだった。そこへ、三社の神が現れ、六人に「よぅここまで来ちゃんさったのぅ。鬼の手足はわしらが鎖で縛っちゃったけ、よう動かんで。頼光は首を切りんさい。他のもんは胴体を切りまくりんさい。いたしゅぅないで。」と言って、鉄の扉を開いて消え失せた。頼光たちは神の加護に感謝しつつ、童子の寝床へと忍び込んだ。そして頼光は頭のほうに行き、刀をするりと抜いて「なまんだぶぅ三社の神さん、力を貸しちゃんさぃ~。」と三度礼をして、童子の首を一気に切り落とした。酒呑童子は目を覚まし、「何ゅぅするんなら~!ウソじゃぁなぁよったくせに、あんたらひきょうじゃのぉ!」と起き上がろうとしたが、手足は鎖で柱に繋がれているので、起きることができない。童子は怒り狂って大声で叫べば、その凄まじさは雷電稲妻、天地を揺るがすほどだった。他の五人は胴体を切り刻めば、首は高く舞い上がり、頼光めがけてただ一咬みと襲い掛かったが、三社の神の星兜のおかげで、頼光は傷一つ負う事はなかった。ついに酒呑童子は息絶え、六人は大庭へと出た。すると大勢の鬼がおり、その中で茨木童子が「大将をやりやがってからぁ~!」と襲い掛かってきた。綱がこれを見て「あんたぁどれほどのもんかよぅ知っとるで。今度こそ退治しちゃる!」と応戦した。しばらく互角に戦っていたが、ついに茨木童子が綱を押さえこんだ。頼光がこれを見て走りより、茨木童子の首をばっさりと切り落とした。そして六人は残った鬼たちをすべて討ち取った。
頼光は「よしゃ、こんだぁ姫さんを助けようで。」と捕らわれていた姫たちを連れ出し、都へ帰ろうとした。その時、辺りを見ると鬼たちに食われてしまった人間の骨が山となっていた。そしてその中に、手足を切り落とされた若い姫が、息も絶え絶えになっているのを見つけた。頼光が駆け寄るとそれが堀河中納言の娘で、「なんとまぁお姫さん、わしらは今鬼ゅぅみな退治して、都へ帰るとこなんじゃ。あんたも連れて帰っちゃるけぇ、もちぃとがんばりんさいよ。」と頼光が言うと姫は「そりゃぁ嬉しいことを言うてじゃの。へじゃがもうわたしゃぁダメじゃけぇ、形見に髪の毛を切って、両親に渡してつかぁさい。ちぃでに帰る前に、わたしにとどめをさしてつかぁさい。」と言った。頼光は「そりゃぁそうかもしれんが、へじゃ都へ帰ったら、すぐにも迎えをよこすけぇ、もちぃと待ちよりんさい。」と言い残し、一行は大江山を下った。ふもとの村で馬を調達し、姫たちを先に帰らせると、都では大騒ぎとなり、凱旋する頼光たちを迎えようと大勢の人が集まった。その中に池田中納言夫婦の姿もあり、ついに娘との再会を果たした。頼光は帝に鬼退治を報告すると、その褒美は限り無しだったと言う。これ以来、この国は平和が訪れ、いつまでも平安な世が続いたという。
大変長くなって申し訳ない。これでもかなり削ったのだが。注目すべき点はいくらでもあるが、中でも酒呑童子が、昼は人間の姿で、夜になると恐ろしい鬼の正体を現すという事。「童子」と言う名だけに、これは重要な点だと思うのだが、実際の神楽においてそういった演出をされているところは意外と少ない。安佐町の宮乃木神楽団が、立ち合いの寸前に面を変えるという事をされているが、非常に見事な演出で個人的にも好きな場面である。ついでにもう一つ言わせてもらうと、あの中川戸神楽団に、「スーパー神楽」として「大江山」を創作していただきたいと日頃から思っているのだが、中川戸さん、ファンのみなさん、いかがだろうか。
この物語は、頼光たちの武勇をメインにしつつ、神のご加護があってこそ、という印象も強調されている。この点は、この「大江山」に限ったことではなく、先に紹介した「葛城山」など、この時代に流行った物語に共通することである。この、「時代に流行った」もしくは「誰かが流行らせた」という観点から考えれば、このシリーズ最大のテーマである「なぜ、貴族風の生活をしていたはずの源頼光が、伝説の主役に仕立て上げられたのか」という事への一つの答えが見つかると思われる。さぁ、では次回はついに最終章。その謎に迫ろう。
(大森神楽団の写真提供:すな様)
この記事が面白い・勉強になったと思われたら迷わずクリック
2006,08,28 Mon 00:00
コメント
A・Iさん、コメントありがとうございます。
こんなにたくさんの感想を書いていただいて、本当に嬉しいです!
3歳の頃のエピソード、とても微笑ましいですねぇ~☆
この物語は、御伽草子を元にして書いたんですが、あのお姫様はそれっきり登場しなかったんですよ^^;
ですから、ボクにもどうなったかわかりません(笑)
ホント、気になりますよね!
広島弁のセリフ、楽しんでいただけたでしょうか。
できればまた新シリーズを書いてみたいんですけど、何しろ手間隙かかるもので…^^;
またコメントお願いします☆
こんなにたくさんの感想を書いていただいて、本当に嬉しいです!
3歳の頃のエピソード、とても微笑ましいですねぇ~☆
この物語は、御伽草子を元にして書いたんですが、あのお姫様はそれっきり登場しなかったんですよ^^;
ですから、ボクにもどうなったかわかりません(笑)
ホント、気になりますよね!
広島弁のセリフ、楽しんでいただけたでしょうか。
できればまた新シリーズを書いてみたいんですけど、何しろ手間隙かかるもので…^^;
またコメントお願いします☆
| 特派員 | EMAIL | URL | 07/03/29 18:29 | BFfnvy1Y |
ちょっとだけ・・・とのぞいてみたらついつい全部読んじゃいました!!
古いのに書き込んじゃってごめんなさ~い(;^-^)人
「大江山」ってそういう物語だったんですね。
昼間は人間の姿なんて知らんかった(@o@;)なんと恐ろしい。
父が現役の頃、酒呑童子を舞っていましたが、幼少の頃うちの父は本当に鬼なんだと思っていました(^^;)
ここを読んだ瞬間つい思い出してしまいました。
うちの知っとる父は・・・
日中の顔は人間で、秋ごろは夜になれば赤い鬼になる!!!
最後に首を切られるとき、
「お父さんの首を切るなぁ!死んでしまうだろうがぁ!!殺すなぁ~!!!」
って3歳の頃、大泣きして大暴れしたことを今でもはっきり覚えています。(笑)
どうでもいいけど、うちのなかでは鬼は綺麗な人をさらうイメージがありました。
といってもただ単純に、さらわれる姫はどこも綺麗だからってだけでしょうけどね・・・。
「そんならうちは鬼にさらわれることはないけぇ大丈夫じゃわぁ」って思っとりました。
童子が頼光様たちに、生き血や人の肉を差し出したなんて!!!
頼光様はすげぇ(ノ◎o◎)ノ
見破られそうになっても交わすところも、さすが頼光様だわ☆
童子も身の上話をしたり、わりとあっさり信用して寝たりとかなんか、「こいつもしかしたら良い奴?話せば分かる奴?」って少し見方しそうになってしまいました。
たぶん広島弁なところが親近感わいてそう思ったんでしょうね!!
赤ぅなっとるんは酒のせぃじゃけ、鬼じゃなぁんでってところとか(他にもあるけど)、やっぱり三谷さんの大江山を思い出してしまいます。
そしてあの姫さんは助かったんでしょうか!?それが少しだけ気になる。(。_。;)
神楽ではすっごい戦いをしよったのに、そんなことがおきとったとはこれまた衝撃!!
宮乃木さんのも見たくなりましたぁ☆
最近このシリーズ更新されてないようですが、もうせんのんですかぁ?
古いのに書き込んじゃってごめんなさ~い(;^-^)人
「大江山」ってそういう物語だったんですね。
昼間は人間の姿なんて知らんかった(@o@;)なんと恐ろしい。
父が現役の頃、酒呑童子を舞っていましたが、幼少の頃うちの父は本当に鬼なんだと思っていました(^^;)
ここを読んだ瞬間つい思い出してしまいました。
うちの知っとる父は・・・
日中の顔は人間で、秋ごろは夜になれば赤い鬼になる!!!
最後に首を切られるとき、
「お父さんの首を切るなぁ!死んでしまうだろうがぁ!!殺すなぁ~!!!」
って3歳の頃、大泣きして大暴れしたことを今でもはっきり覚えています。(笑)
どうでもいいけど、うちのなかでは鬼は綺麗な人をさらうイメージがありました。
といってもただ単純に、さらわれる姫はどこも綺麗だからってだけでしょうけどね・・・。
「そんならうちは鬼にさらわれることはないけぇ大丈夫じゃわぁ」って思っとりました。
童子が頼光様たちに、生き血や人の肉を差し出したなんて!!!
頼光様はすげぇ(ノ◎o◎)ノ
見破られそうになっても交わすところも、さすが頼光様だわ☆
童子も身の上話をしたり、わりとあっさり信用して寝たりとかなんか、「こいつもしかしたら良い奴?話せば分かる奴?」って少し見方しそうになってしまいました。
たぶん広島弁なところが親近感わいてそう思ったんでしょうね!!
赤ぅなっとるんは酒のせぃじゃけ、鬼じゃなぁんでってところとか(他にもあるけど)、やっぱり三谷さんの大江山を思い出してしまいます。
そしてあの姫さんは助かったんでしょうか!?それが少しだけ気になる。(。_。;)
神楽ではすっごい戦いをしよったのに、そんなことがおきとったとはこれまた衝撃!!
宮乃木さんのも見たくなりましたぁ☆
最近このシリーズ更新されてないようですが、もうせんのんですかぁ?
| A・I | EMAIL | URL | 07/03/29 15:24 | 0dchuV.g |
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