鬼女征伐の勅命を受けた平維茂は、兵を率いて戸隠山へと向かった。まず維茂は様子をさぐるために僧の姿に変装して山に入った。これを知った紅葉は、神楽でもおなじみの紅葉狩の酒宴を開いて維茂を誘い込んだ。そして毒酒を飲ませようとするも、維茂がこれを見破り、飲んだふりをしてその場を切り抜け、無事に下山した。
兵を整えた維茂は、ついに紅葉の住む岩屋へと進撃。しかし紅葉の妖術には歯が立たず、幾度攻めても負けを重ねるのみだった。そこで維茂はいったん兵を下げ、戸隠山から南へ約40キロ離れた北向観音(きたむきかんのん)へ参拝し、「降魔(ごうま)の剣」を授かる。軍を立て直した維茂は再び紅葉との戦いに挑む。ついに正体を現した紅葉は、空に舞い上がって妖術を使うが、山の麓にある戸隠奥院の上空から金色の光が飛び出した。その光で両目を貫かれた紅葉は地上に落ち、維茂によってとどめをさされた。こうして戸隠山の鬼女、紅葉は成敗された。
「紅葉狩」伝説については様々な説が残されているので、あくまでもその一つという事でご了承いただきたい。さて舞台となったこの戸隠山、実は意外な由来がある。その昔、天照大御神が岩戸にこもられた時、手力男命がその岩戸を開いて投げ捨てた。その岩戸が信州信濃国に落ちて山となったため、「戸隠山」という名がついたのだ。なかなかのトリビアではないかと思うが、いかがだろうか。
平安の中頃から末期にかけて、鬼や妖怪の伝説が数多く作られている。先に紹介した「大江山」もしかり。山に住み着いた盗賊たちが忌み嫌われて「鬼」に仕立て上げられたのは前に紹介した通りだが、この頃は女の盗賊も少なくなかったようだ。「今昔物語」にも女盗賊の話が載っており、それを考えると、戸隠山に女の頭を持つ盗賊団があったとしても良さそうだ。また、「紅葉狩」伝説とは少し違うが、源頼光の父である満仲が、戸隠山で鬼を切ったという話が「太平記」に収められており、やはり戸隠山になんらかの賊集団があった可能性は高いように思う。
一般的な「紅葉狩」だと、ただの鬼女大王でしかないが、実はこういった伝説の上に作り上げられたものだったのである。クライマックスで、何度も神に切り付けられ、もがきながら死んでいく鬼の姿に、みなさんは何を思うだろうか。恵まれない環境で生まれ育ち、犯罪に手を染め、挙句の果てに処刑される。ちょっと大げさかもしれないが、私には現代にも共通するような物語に思えてならない。珍しくマジメな終わり方だが、これにてシリーズ「紅葉狩」を終了としたい。次回の予定はないが、リクエスト・ご意見などドシドシお寄せいただきたい。
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参考文献
馬場 あき子 「鬼の研究」 ちくま文庫
竹本 幹夫 「対訳でたのしむ 紅葉狩」 檜書店
高平 鳴海・糸井 賢一・大林 憲司・エーアイ スクウェア 「鬼」 新紀元社
写真協力
日吉神楽団
上河内神楽団
大塚神楽団
中川戸神楽団
原田神楽団
西宗神楽団
宮乃木神楽団
イラスト 門出尚子
兵を整えた維茂は、ついに紅葉の住む岩屋へと進撃。しかし紅葉の妖術には歯が立たず、幾度攻めても負けを重ねるのみだった。そこで維茂はいったん兵を下げ、戸隠山から南へ約40キロ離れた北向観音(きたむきかんのん)へ参拝し、「降魔(ごうま)の剣」を授かる。軍を立て直した維茂は再び紅葉との戦いに挑む。ついに正体を現した紅葉は、空に舞い上がって妖術を使うが、山の麓にある戸隠奥院の上空から金色の光が飛び出した。その光で両目を貫かれた紅葉は地上に落ち、維茂によってとどめをさされた。こうして戸隠山の鬼女、紅葉は成敗された。
「紅葉狩」伝説については様々な説が残されているので、あくまでもその一つという事でご了承いただきたい。さて舞台となったこの戸隠山、実は意外な由来がある。その昔、天照大御神が岩戸にこもられた時、手力男命がその岩戸を開いて投げ捨てた。その岩戸が信州信濃国に落ちて山となったため、「戸隠山」という名がついたのだ。なかなかのトリビアではないかと思うが、いかがだろうか。
平安の中頃から末期にかけて、鬼や妖怪の伝説が数多く作られている。先に紹介した「大江山」もしかり。山に住み着いた盗賊たちが忌み嫌われて「鬼」に仕立て上げられたのは前に紹介した通りだが、この頃は女の盗賊も少なくなかったようだ。「今昔物語」にも女盗賊の話が載っており、それを考えると、戸隠山に女の頭を持つ盗賊団があったとしても良さそうだ。また、「紅葉狩」伝説とは少し違うが、源頼光の父である満仲が、戸隠山で鬼を切ったという話が「太平記」に収められており、やはり戸隠山になんらかの賊集団があった可能性は高いように思う。
一般的な「紅葉狩」だと、ただの鬼女大王でしかないが、実はこういった伝説の上に作り上げられたものだったのである。クライマックスで、何度も神に切り付けられ、もがきながら死んでいく鬼の姿に、みなさんは何を思うだろうか。恵まれない環境で生まれ育ち、犯罪に手を染め、挙句の果てに処刑される。ちょっと大げさかもしれないが、私には現代にも共通するような物語に思えてならない。珍しくマジメな終わり方だが、これにてシリーズ「紅葉狩」を終了としたい。次回の予定はないが、リクエスト・ご意見などドシドシお寄せいただきたい。
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参考文献
馬場 あき子 「鬼の研究」 ちくま文庫
竹本 幹夫 「対訳でたのしむ 紅葉狩」 檜書店
高平 鳴海・糸井 賢一・大林 憲司・エーアイ スクウェア 「鬼」 新紀元社
写真協力
日吉神楽団
上河内神楽団
大塚神楽団
中川戸神楽団
原田神楽団
西宗神楽団
宮乃木神楽団
イラスト 門出尚子
2007,01,09 Tue 00:00
コメント
榊凪さん、コメントありがとうございます。
今のところ、研究コラムを書くような余裕がないので、せっかくのリクエストなんですが、ご期待にそえることができないと思います。
また機会があればやってみたいので、どうぞよろしくお願いします。
今のところ、研究コラムを書くような余裕がないので、せっかくのリクエストなんですが、ご期待にそえることができないと思います。
また機会があればやってみたいので、どうぞよろしくお願いします。
| 特派員 | EMAIL | URL | 08/02/25 21:56 | BFfnvy1Y |
はて?岩で山になったの葛城山ではなかったけ?
あれなんかちがう。あ~わかんない
じぶんも日本武尊にさんせいでし
あれなんかちがう。あ~わかんない
じぶんも日本武尊にさんせいでし
| 榊凪 | EMAIL | URL | 08/02/25 13:18 | sDlCJhvw |
ジェラードさん、コメントありがとうございます。
今回の「紅葉狩」はいかがだったでしょうか。
「日本武尊」ですかぁ、検討してみます☆
またコメントお願いします。
今回の「紅葉狩」はいかがだったでしょうか。
「日本武尊」ですかぁ、検討してみます☆
またコメントお願いします。
| 特派員 | EMAIL | URL | 07/01/10 21:01 | BFfnvy1Y |
今回も全章見させて、頂きました。
次回は「日本武尊」について紹介して頂きたいです。
次回は「日本武尊」について紹介して頂きたいです。
| ジェラード | EMAIL | URL | 07/01/10 20:31 | qbFB6WTk |
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