1月17日に千代田開発センターで「月一の舞 チャリの技ー神楽の中の笑いー」が行われました。おかしな言動などで人を楽しませる、言わば道化のような役がチャリです。今回の月一はそのチャリ役にスポットを当てた特集ということで、伝統芸能の枠を超えた名人芸が繰り広げられました。それではご紹介します。
まずは川北神楽団「安達ヶ原」。陸奥国の安達ヶ原を訪れた山伏と剛力が恐ろしい目に遭う…というもので「黒塚」と同様の物語です。もちろんチャリ役は剛力さんですが、こちらではお二人の剛力さんが登場されました。一人はまだ中学生、そしてもう一人は大ベテランというコンビ。話術も巧みなベテラン剛力さん、何十年ぶりかにバスに乗ったおばあさんの話などで会場を盛り上げます。ベテランの技に押されるばかりかと思いきや…子分の剛力さんも意外なアドリブで笑わせてくださいました。そして途中からなんと狐さんも親子の二匹で登場。赤いリボンをつけて本当に可愛らしい子狐さんの活躍ぶり、物語を忘れてつい応援したくなりますね。客席に降りる場面もありましたが、たくさんの方が写真を撮られたり声をかけたりされて大人気でした。
続いて大塚神楽団「戻り橋」。こちらのチャリ役はもちろん、傘売り善兵衛さん。ところが善兵衛さん、つい最近「悪狐伝」の珍斉和尚を舞われたということで、セリフがごっちゃごちゃ。なかなか物語が前に進みません(笑)。挙句の果てにはお客さんからツッコミを入れられる始末。「舞なし、しゃべりだけで」というご本人のお言葉通り、こちらを飽きさせないテンポのよいトークで楽しませてくださいました。そしてなんとか物語が進んで、茨木童子の化身とのやり取りの場面。日が暮れて家に帰ろうとした善兵衛さんと、現れた化身が出会うはず…が、なんと二人ともスルー。おまけに化身さんはそのまま進んで幕の中に消えてしまわれました。再び現れるも、今度は気付いた善兵衛さんに対して、またもやスルーして通り過ぎようとする化身さん。本来はチャリ役ではありませんが、なかなかツボを押さえた演出で笑わせてくださいました。
そして琴庄神楽団「悪狐伝」。ここまで爆笑の連続で、会場は笑い疲れた感が漂っているような感じでしたが、ここでもチャリの技は炸裂。十念寺の和尚、珍斉さんと八念寺?のはっちゃんのお二人が息のあったコンビで笑わせてくださいました。お二人とも面を外す一幕もあったので、普段はどういった役を舞われているかおわかりになった方もおられたと思います。いつもは真剣な姿しか見ていないので、「こんな役もされるんだ~」と意外に思われたことでしょう。中でも一夜の宿を借りに来た狐の化身さんも加えたやり取りが面白かったですね。おもむろに姫の衣装に足を突っ込んだ和尚さん、コタツに見立てて「あたりんさい。」とはっちゃんを呼びます。うずくまっている姫の上にミカンを乗せてすっかりくつろぎモード。先月の月一では「奥州平泉」で感動的な物語を見せてくださいましたが、思わずその時の役を思い浮かべて余計におかしくなってしまいました。
最後は大塚神楽団「頼政」。石見神楽の「頼政」や広島の「ぬえ退治」の演目とは少し異なる内容が見受けられる、興味深い物語でした。こちらでのチャリ役は料理人の平野庄内(ひらのしょうない)という人物。先ほどの「戻り橋」「悪狐伝」でお餅がまかれたのを受けて「はぁ餅はないけぇね。」とアドリブの効いた一言はありましたが、あとはこれまでのように一人舞台ということはなく、物語を進めていかれました。これまでの三演目が爆笑続きだったので、少し物足りないと思われた方もおられたかもしれませんが、他の役にはない舞い方を見て「面白い話だけがチャリの技ではない」ということを感じていただけたのではないでしょうか。もちろん今日のチャリの舞手さんみなさんがそうですが、こっけいな舞い方や大きな動作、しゃべる時でもその話し方や間の取り方など、実はかなり高度な技術が要求される役ではないかと思います。さてこの庄内さん、料理の具材を運ぶ途中でたくさんのお猿さんに襲われてしまいます。言葉のやり取りはありませんが、チャリの技をたっぷり味わうことができる場面でした。
さて今回はそれぞれの演目のチャリに注目してご紹介しました。本当に面白い内容ばかりで、たまにはこんな企画もいいなと思われた方も多くいらっしゃったのではないでしょうか。面白い話だけでなく、笑いの影に隠されたチャリの技、その本当の技を見つけることができたなら、今まで以上に面白く感じることができるかもしれませんね。
まずは川北神楽団「安達ヶ原」。陸奥国の安達ヶ原を訪れた山伏と剛力が恐ろしい目に遭う…というもので「黒塚」と同様の物語です。もちろんチャリ役は剛力さんですが、こちらではお二人の剛力さんが登場されました。一人はまだ中学生、そしてもう一人は大ベテランというコンビ。話術も巧みなベテラン剛力さん、何十年ぶりかにバスに乗ったおばあさんの話などで会場を盛り上げます。ベテランの技に押されるばかりかと思いきや…子分の剛力さんも意外なアドリブで笑わせてくださいました。そして途中からなんと狐さんも親子の二匹で登場。赤いリボンをつけて本当に可愛らしい子狐さんの活躍ぶり、物語を忘れてつい応援したくなりますね。客席に降りる場面もありましたが、たくさんの方が写真を撮られたり声をかけたりされて大人気でした。
続いて大塚神楽団「戻り橋」。こちらのチャリ役はもちろん、傘売り善兵衛さん。ところが善兵衛さん、つい最近「悪狐伝」の珍斉和尚を舞われたということで、セリフがごっちゃごちゃ。なかなか物語が前に進みません(笑)。挙句の果てにはお客さんからツッコミを入れられる始末。「舞なし、しゃべりだけで」というご本人のお言葉通り、こちらを飽きさせないテンポのよいトークで楽しませてくださいました。そしてなんとか物語が進んで、茨木童子の化身とのやり取りの場面。日が暮れて家に帰ろうとした善兵衛さんと、現れた化身が出会うはず…が、なんと二人ともスルー。おまけに化身さんはそのまま進んで幕の中に消えてしまわれました。再び現れるも、今度は気付いた善兵衛さんに対して、またもやスルーして通り過ぎようとする化身さん。本来はチャリ役ではありませんが、なかなかツボを押さえた演出で笑わせてくださいました。
そして琴庄神楽団「悪狐伝」。ここまで爆笑の連続で、会場は笑い疲れた感が漂っているような感じでしたが、ここでもチャリの技は炸裂。十念寺の和尚、珍斉さんと八念寺?のはっちゃんのお二人が息のあったコンビで笑わせてくださいました。お二人とも面を外す一幕もあったので、普段はどういった役を舞われているかおわかりになった方もおられたと思います。いつもは真剣な姿しか見ていないので、「こんな役もされるんだ~」と意外に思われたことでしょう。中でも一夜の宿を借りに来た狐の化身さんも加えたやり取りが面白かったですね。おもむろに姫の衣装に足を突っ込んだ和尚さん、コタツに見立てて「あたりんさい。」とはっちゃんを呼びます。うずくまっている姫の上にミカンを乗せてすっかりくつろぎモード。先月の月一では「奥州平泉」で感動的な物語を見せてくださいましたが、思わずその時の役を思い浮かべて余計におかしくなってしまいました。
最後は大塚神楽団「頼政」。石見神楽の「頼政」や広島の「ぬえ退治」の演目とは少し異なる内容が見受けられる、興味深い物語でした。こちらでのチャリ役は料理人の平野庄内(ひらのしょうない)という人物。先ほどの「戻り橋」「悪狐伝」でお餅がまかれたのを受けて「はぁ餅はないけぇね。」とアドリブの効いた一言はありましたが、あとはこれまでのように一人舞台ということはなく、物語を進めていかれました。これまでの三演目が爆笑続きだったので、少し物足りないと思われた方もおられたかもしれませんが、他の役にはない舞い方を見て「面白い話だけがチャリの技ではない」ということを感じていただけたのではないでしょうか。もちろん今日のチャリの舞手さんみなさんがそうですが、こっけいな舞い方や大きな動作、しゃべる時でもその話し方や間の取り方など、実はかなり高度な技術が要求される役ではないかと思います。さてこの庄内さん、料理の具材を運ぶ途中でたくさんのお猿さんに襲われてしまいます。言葉のやり取りはありませんが、チャリの技をたっぷり味わうことができる場面でした。
さて今回はそれぞれの演目のチャリに注目してご紹介しました。本当に面白い内容ばかりで、たまにはこんな企画もいいなと思われた方も多くいらっしゃったのではないでしょうか。面白い話だけでなく、笑いの影に隠されたチャリの技、その本当の技を見つけることができたなら、今まで以上に面白く感じることができるかもしれませんね。
2010,01,19 Tue 20:54
新着コメント
神楽ファンさん、コメントありがとうございます。
月一の舞はキャビネットさんが撮影されていますので、おそらく販売もあると思います。
詳しくはキャビネットさんに問い合わせてみてください。
月一の舞はキャビネットさんが撮影されていますので、おそらく販売もあると思います。
詳しくはキャビネットさんに問い合わせてみてください。
| 特派員Y | EMAIL | URL | 10/02/15 22:18 | sDlCJhvw |
この時のDVDは販売されますか?
| 神楽ファン | EMAIL | URL | 10/02/15 04:22 | iV95cbPg |
三田井地区神楽保存会「御神躰(ごしんたい)の舞」。こちらの地方では聞きなれない演目ですが、その内容はイザナギとイザナミの二人の神様がお酒を作り、それを飲んで仲良くするというもの。別名「国生みの舞」とも言われ、夫婦円満を象徴する神楽なんだそうです。さてその二人の神様、お客さんともふれあう場面が。男の神様であるイザナギが、客席で女性のお客さんを見つけて親しそうな素振りをすると、それを見つけた妻のイザナミが駆け寄って引き戻してみたり。またその反対にイザナミも男性のお客さんにくっついて…というように、前半はあまり円満な感じではなかったかもしれません(笑)。 そして舞殿で仲良くお酒を作り始めるのですが、この二人の神様はみなさんご存知のように、この日本という国を作られた神様として有名です。天浮橋(あめのうきはし)に立たれた二人は、天沼矛(あめのぬぼこ)で混沌とした大地をかき混ぜ、その矛から滴り落ちたものが島となった…という国生みの神話。二人で仲良く作ったお酒を飲み合い、抱擁している姿は天下泰平を表しているようにも見えました。そして最後は会場のみなさんにモチまきのサービス。あまりにも広い会場なので、ゲットされた方は少なかったと思いますが、心温まる演目でした。
そして次は石見神楽です。後野神楽社中「五神」は、物語の内容としては先ほどの「御神躰の舞」に続いていると言えます。それぞれ四方、四季を司る四人の王子たちに、末っ子の埴安大王は領地を分けて欲しいと頼みます。願いは聞き入れられず戦になりますが、所務分けの翁が現れて戦を止めさせ、そして四季に土用を作り、四方に中央を作って埴安大王に分け与えます。そしてこの国が平和に治まるようになったという物語。少し難しいのですが、いわゆる陰陽五行思想を表した神楽で、いろんな要素が詰まったいわば大作とも言える内容です。内容が難しい上に、言葉も多いので「面白い」と感じるのはなかなか容易ではないかもしれません。しかし中盤には埴安大王の使いが現れ、浜田弁で領地を分けて欲しいと訴えます。マジメな内容と思いきや、「ちっと分けてや。」「やらりゃ~せん!」といったやり取りが繰り広げられ、思わず笑ってしまった方も多かったようです。またそれぞれ五色の鎧の衣装で、息をもつかせぬ激しい合戦は、この演目の大きな見どころ。五人が入り乱れる中で途中刀がキラリと輝く瞬間など、誰にでも面白いと感じさせてくれるのではないでしょうか。それでもやはり、最大の見どころは言葉の面白さであると思います。四神と埴安の畳み掛けるような言葉の応酬や、合戦を前に一気に捲くし立てる場面は、この演目ならではの面白さ。以前、神楽研究コラムでこの「五神」を特集しましたので、興味のある方はどうぞご覧ください。
http://www.npo-hiroshima.jp/blogn/index.php?e=108
そして有東木芸能保存会「恵比寿大黒の舞」。これは神楽ファンのみなさんにお馴染みの演目ですね。鯛を釣ろうと悪戦奮闘する恵比寿様と大黒様。広島では普通に広島弁でしゃべったりして客席を沸かせたりという内容も時々見受けられますが、こちらは言葉は一切なし。その代わり、実にわかりやすい身振り手振りで面白さを伝えてくださいました。また、広島ではガラクタを釣り上げたりしてなかなか鯛がかからないという演出が馴染み深いと思いますが、こちらの恵比寿様は最初から見事に大鯛を釣り上げられました。そしてもう一度!と糸を垂れているところに、なにやら背後から怪しい者が忍び寄ってきます。よく見るとそれは狐で、釣り上げた鯛を狙っているのです。そして恵比寿様が見事二匹目の鯛を釣り上げますが、跳ね上がる鯛を掴み損ね、そこを狐が待ってましたと言わんばかりにさっと鯛を奪って逃げていきました。いったん落ち込むものの再び挑戦しようとする恵比寿様、大黒様の姿、そしてこの展開に、思わず笑顔になられた方も多かったことでしょう。そしてまたもや鯛を釣り上げてめでたしめでたし。最後には静岡県特産のわさびとお茶がモチまきのようにまかれ、中には席を立って取りに行かれるお客さんもおられました。
最後は津浪神楽団「鍾馗」。素戔鳴(すさのお)命と大疫神、登場するこの二つの役が実に対照的で、そこがこの演目の見どころでもあります。ゆったりと、どっしりと。舞殿に現れた素戔鳴命は淡々と一人舞を繰り広げていきます。低い姿勢から高い姿勢へなめらかな動きを見せたかと思えば、楽に合わせてキレのある動き。緩急の効いた舞をしっかりと見せてくださいました。そして一方の大疫神。幕から地をなめるように低い体勢で登場。素戔鳴命に威嚇されると「ゴソゴソゴソ…」という音が聞こえてきそうな動きで引っ込みます。見た目といい、動きといい、近づいたら本当に病気にかかってしまいそうな印象すら受けますね(笑)。そんな大疫神を前に一歩も引かない素戔鳴命。茅の輪をかざして「どこからかかっていこうか」と構える姿勢は、安易な表現かもしれませんが本当に「カッコいい」です。そしてクライマックス、茅の輪によって苦しめられる大疫神、長い髪の毛を振り乱し、最後の最後まで不気味さを漂わせていました。登場人物や展開が少ないので地味かもしれませんが、対照的な役を完璧に舞い切った舞手さんの技量、素晴らしかったですね。見ている途中は休むことなく力が入りっぱなしといった感じで、舞台に集中させていただきました。
以上、「全国神楽フェスティバル」の最終日の模様を少しだけお伝えしました。さて芸北地域では大雪に見舞われているところもありますが、今週末は「月一の舞」が開催されます。「チャリの技」という珍しい企画ですので、どうぞみなさん千代田開発センターにお越しください。
http://www.npo-kagura.jp/contents/2009-kouiki-kagura/index.html
(画像は主催者の許可を得て撮影および掲載しております。 撮影 yuk☆kiiさん)
2010,01,14 Thu 19:31
新着コメント
nanさん、コメントありがとうございます。
見に行けなかった方のためにも、できるだけ上演の様子がわかるように書いているつもりです。
お褒めの言葉、嬉しく思います。
またコメントお願いします☆
見に行けなかった方のためにも、できるだけ上演の様子がわかるように書いているつもりです。
お褒めの言葉、嬉しく思います。
またコメントお願いします☆
| 特派員Y | EMAIL | URL | 10/02/03 21:30 | sDlCJhvw |
この公演みにいけなかったのでためになりました!
ありがとうございます!
ありがとうございます!
| nan | EMAIL | URL | 10/02/03 09:30 | TbAzEWsM |
広島市のALSOKホールで、1月9日から11日までの三日間に渡って開催された「全国神楽フェスティバルinひろしま」。北は北海道から南は宮崎県まで、日本各地に伝わる様々な神楽が一堂に会するというまさにビッグイベントでした。広島・島根の神楽ファンのみなさんのみならず、全国からの注目度も高かったようです。このたびの特派員報告はその最終日からいくつかご紹介していきます。
まずは千年以上の歴史を誇る、あの高千穂神楽の登場。宮崎県の三田井地区神楽保存会「手力雄(たぢからお)の舞」です。この演目は広島・島根でいうところの「天の岩戸」の前半部分にあたるようです。こう書くと、おそらくみなさんは「児屋根命と太玉命が出るんじゃない?」と思われるでしょうが、なんとこちらでは力の強い手力雄命が岩戸を探し出すという内容なのです。お馴染みの「天の岩戸」を見慣れている自分にとっても、非常に興味深いものでした。しかしその舞を見ると、やはり神楽の基本は同じということなんでしょうか、まったく新しいものを見るという感覚はありませんでした。これは後でご紹介する静岡県の神楽でも同じでしたね。その手力雄の舞ですが、わかりやすく言うならば、広島の山県舞の鬼のような感じ。腰を落として力強くゆったりと進み、回るところではスッと高くなって回り、再び腰を落として決める。そして機敏な頭の動きで辺りを見回すといった具合。続いて「鈿女の舞」が始まりました。こちらは広島と同じく、岩戸の前で神楽を舞って天照大神に出てきていただこうとする内容です。手力雄と入れ替わるように舞殿に現れた鈿女命。小さな赤い御幣と扇子を持っての舞でしたが、幣を右手に持って舞われていたのが興味深かったです。また先ほどの手力雄の舞と見比べることによって、基本の舞の形がなんとなく見てとれたのも面白く感じられました。最後は「戸取(ととり)の舞」。流れで想像はつきますが、手力雄がいよいよ天の岩戸を開く内容です。この演目では手力雄ではなく戸取という役名で登場します。その面は先ほどの「手力雄の舞」では白でしたが、この演目では赤いものが使われていました。みなさんも思いっきり力を入れると顔が赤くなったりということがあるかと思いますが、千年以上の歴史がある高千穂の神楽でもこういった演出があるんですね。また決して派手さがあるわけではありませんが、戸取が岩戸を持ち上げた時は客席から大きな拍手があったのが嬉しかったですね。
次はお馴染みの芸北神楽より三谷神楽団「矢旗」。質素でありながら厳かな高千穂神楽の後でしたので、いつも見慣れたはずの広島の神楽でも、ちょっと新鮮な感じで見ることができました。およそ百年前に広島に伝わった矢上系石見神楽、そして旧舞の「矢旗」。現代の私達が見ると十分伝統的な神楽ですが、先ほどの高千穂神楽の影響でずいぶん進化したものに見えました。一見同じ舞をしている二人の神ですが、よく見ると微妙に違いがあったりして、それが役の違いに反映されていると思うと本当に面白く感じます。二匹の鬼についても同じで、こちらは舞手さんの個性といったほうがいいのかもしれませんが、回ったり入れ替わったりしてもどっちがどうだかハッキリとわかるんですよね。舞手さんの技量の高さや舞い込み具合がしっかりと感じられました。
そして静岡県の有東木(うとうぎ)芸能保存会「高嶺(たかね)の舞」。この有東木の神楽は太鼓が一人で笛がなんと七人登場されました。そして四人の舞手さんが右手に鈴、左手に刀を持っての舞を披露。四人が同じ動きをしながら、右に周ったり、中に集まったり、外に広がったりといった感じで淡々と舞われていきます。一体どんな意味合いの舞なのかわからなかったのですが、最後までしっかり見せていただきました。そしてもう一つ「松竹梅の舞」。三人の舞手さんが背中に松、竹、梅の入ったかごを背負われて舞うという内容で、とても珍しい印象を受けました。先ほどの高嶺の舞にしても、広島でいうところの「儀式舞」といった感じなのですが、儀式舞を思い起こしてみると、一人で舞う「神降し」、地域によっては「潮祓」を二人で舞ったり、そして「神迎え」では四人舞というふうに、三人での舞はちょっと記憶にありません。ということで舞手さんの舞う位置取りが非常に興味深かったのですが、舞殿の四隅に位置し、一つの隅が空いた状態で順番に周ったり、一人が待つ間に二人が交差したり、一人が中央に来て三人で同じ方向に拝んだりと、とにかく新鮮な感じで拝見させていただきました。
以上、今回は三団体六演目をご紹介させていただきました。「その2」に続きますのでお楽しみに!
(画像は主催者の許可を得て撮影および掲載しております。 撮影 yuk☆kiiさん)
まずは千年以上の歴史を誇る、あの高千穂神楽の登場。宮崎県の三田井地区神楽保存会「手力雄(たぢからお)の舞」です。この演目は広島・島根でいうところの「天の岩戸」の前半部分にあたるようです。こう書くと、おそらくみなさんは「児屋根命と太玉命が出るんじゃない?」と思われるでしょうが、なんとこちらでは力の強い手力雄命が岩戸を探し出すという内容なのです。お馴染みの「天の岩戸」を見慣れている自分にとっても、非常に興味深いものでした。しかしその舞を見ると、やはり神楽の基本は同じということなんでしょうか、まったく新しいものを見るという感覚はありませんでした。これは後でご紹介する静岡県の神楽でも同じでしたね。その手力雄の舞ですが、わかりやすく言うならば、広島の山県舞の鬼のような感じ。腰を落として力強くゆったりと進み、回るところではスッと高くなって回り、再び腰を落として決める。そして機敏な頭の動きで辺りを見回すといった具合。続いて「鈿女の舞」が始まりました。こちらは広島と同じく、岩戸の前で神楽を舞って天照大神に出てきていただこうとする内容です。手力雄と入れ替わるように舞殿に現れた鈿女命。小さな赤い御幣と扇子を持っての舞でしたが、幣を右手に持って舞われていたのが興味深かったです。また先ほどの手力雄の舞と見比べることによって、基本の舞の形がなんとなく見てとれたのも面白く感じられました。最後は「戸取(ととり)の舞」。流れで想像はつきますが、手力雄がいよいよ天の岩戸を開く内容です。この演目では手力雄ではなく戸取という役名で登場します。その面は先ほどの「手力雄の舞」では白でしたが、この演目では赤いものが使われていました。みなさんも思いっきり力を入れると顔が赤くなったりということがあるかと思いますが、千年以上の歴史がある高千穂の神楽でもこういった演出があるんですね。また決して派手さがあるわけではありませんが、戸取が岩戸を持ち上げた時は客席から大きな拍手があったのが嬉しかったですね。
次はお馴染みの芸北神楽より三谷神楽団「矢旗」。質素でありながら厳かな高千穂神楽の後でしたので、いつも見慣れたはずの広島の神楽でも、ちょっと新鮮な感じで見ることができました。およそ百年前に広島に伝わった矢上系石見神楽、そして旧舞の「矢旗」。現代の私達が見ると十分伝統的な神楽ですが、先ほどの高千穂神楽の影響でずいぶん進化したものに見えました。一見同じ舞をしている二人の神ですが、よく見ると微妙に違いがあったりして、それが役の違いに反映されていると思うと本当に面白く感じます。二匹の鬼についても同じで、こちらは舞手さんの個性といったほうがいいのかもしれませんが、回ったり入れ替わったりしてもどっちがどうだかハッキリとわかるんですよね。舞手さんの技量の高さや舞い込み具合がしっかりと感じられました。
そして静岡県の有東木(うとうぎ)芸能保存会「高嶺(たかね)の舞」。この有東木の神楽は太鼓が一人で笛がなんと七人登場されました。そして四人の舞手さんが右手に鈴、左手に刀を持っての舞を披露。四人が同じ動きをしながら、右に周ったり、中に集まったり、外に広がったりといった感じで淡々と舞われていきます。一体どんな意味合いの舞なのかわからなかったのですが、最後までしっかり見せていただきました。そしてもう一つ「松竹梅の舞」。三人の舞手さんが背中に松、竹、梅の入ったかごを背負われて舞うという内容で、とても珍しい印象を受けました。先ほどの高嶺の舞にしても、広島でいうところの「儀式舞」といった感じなのですが、儀式舞を思い起こしてみると、一人で舞う「神降し」、地域によっては「潮祓」を二人で舞ったり、そして「神迎え」では四人舞というふうに、三人での舞はちょっと記憶にありません。ということで舞手さんの舞う位置取りが非常に興味深かったのですが、舞殿の四隅に位置し、一つの隅が空いた状態で順番に周ったり、一人が待つ間に二人が交差したり、一人が中央に来て三人で同じ方向に拝んだりと、とにかく新鮮な感じで拝見させていただきました。
以上、今回は三団体六演目をご紹介させていただきました。「その2」に続きますのでお楽しみに!
(画像は主催者の許可を得て撮影および掲載しております。 撮影 yuk☆kiiさん)
2010,01,12 Tue 21:28
新着コメント
皆さま、明けましておめでとうございます。今年も皆さまに楽しんでいただけるような報告を頑張って参ります。 本年もどうぞよろしくお願いします。それでは、少しばかりですが新春神楽二日目の報告を始めたいと思います。
石見神楽亀山社中「岩戸」
天児屋根命と天太玉命が岩戸へと向かう場面。こちらの岩戸では太玉命の姿も児屋根命と似た姿をしていました。よく広島で見るのは、凛々しい顔立ちの太玉命なので、どこかいつもとは違う雰囲気が感じられました。また、舞いでは双方ともどっしりと深みのある舞いを披露。そして息もピッタリと合い、会場に響く鈴の音も心地よく聴こえました。そして、話は進み鈿女命と手力男命が岩戸を開こうとする場面。鈿女命の舞いは柔らかく、優雅な舞い。また、その場でくるくると回る様子は、衣装の袖も広がりとても綺麗でした。そして手力男命の舞いは鈿女命とは異なり荒々しくもずっしりとした舞い。大太鼓の力強い音も重なり、拳を握りしめ力があふれているようでした。また、後半で見せる面の早変わりも印象的でした。
琴庄神楽団「義経平氏追討」
始まってすぐ壇ノ浦の戦いの様子で源氏、源義経等と平家、平知盛等の戦いが始まります。激しく繰り広げられる立ち合いにすぐさまこの物語の中へと引きずり込まれていくようでした。そして、物語は源氏に破れ身を投げた知盛が亡霊となる場面。碇(いかり)とともに海底深くに沈んだ知盛。息のできない苦しさと源氏への恨みが舞手さんの所作、顔の表情によって鮮明に伝わり、見ているこちらまで苦しくなってしまいそうでした。また、知盛が怨念へと変わる場面では、その様子はまさに一瞬の出来事。素早い面の早変わりに客席からも歓声が起こっていました。そして物語は、いよいよクライマックスへ。義経と亡霊と化した知盛の立ち合い。序盤で見せた立ち合いよりもさらに激しく、見ているこちらまで火がついてしまいそうな勢いでした。また、激しい立ち合いのため、バサリと一撃を喰らい知盛が倒れこんだとき、勢い余ってズルリと高い舞台から落ちてしまう場面もありました。それほどまでに白熱した戦いに観客は頑張れ!と敵味方関係なくたくさんのエールを送られていました。
大塚神楽団「恵比寿舞」
こちらの恵比寿舞では、恵比寿様の登場の前に市杵島姫(いちきしまひめ)という姫が登場します。この姫は宗像三女神の一人で厳島神社にも祭られており、後に弁才天とも結びつけられる神様だそうです。この神楽の物語では、国譲りの天照大神の使いとして登場し、大国主尊のもとを尋ねるという演出となっていました。そして話は進み、恵比寿様の登場の場面。朗らかな笑顔で釣りが始まります。一投目は謹賀新年という書初めを釣り上げ、お正月ならではの演出を見せてくれました。そして二投目でやっと鯛を釣り上げ、最後は皆さまにも幸せを、と餅まきが行われました。大国主尊・市杵島姫・恵比寿様がたくさんの紅白の餅を撒き、多くのお客さまにお餅が行き渡りました。
さて、今年も始まったばかりですが、さっそく新春神楽で存分に神楽を満喫できましたね。今年もこれをスタートに、たくさん神楽を観て楽しんでいきましょう♪
石見神楽亀山社中「岩戸」
天児屋根命と天太玉命が岩戸へと向かう場面。こちらの岩戸では太玉命の姿も児屋根命と似た姿をしていました。よく広島で見るのは、凛々しい顔立ちの太玉命なので、どこかいつもとは違う雰囲気が感じられました。また、舞いでは双方ともどっしりと深みのある舞いを披露。そして息もピッタリと合い、会場に響く鈴の音も心地よく聴こえました。そして、話は進み鈿女命と手力男命が岩戸を開こうとする場面。鈿女命の舞いは柔らかく、優雅な舞い。また、その場でくるくると回る様子は、衣装の袖も広がりとても綺麗でした。そして手力男命の舞いは鈿女命とは異なり荒々しくもずっしりとした舞い。大太鼓の力強い音も重なり、拳を握りしめ力があふれているようでした。また、後半で見せる面の早変わりも印象的でした。
琴庄神楽団「義経平氏追討」
始まってすぐ壇ノ浦の戦いの様子で源氏、源義経等と平家、平知盛等の戦いが始まります。激しく繰り広げられる立ち合いにすぐさまこの物語の中へと引きずり込まれていくようでした。そして、物語は源氏に破れ身を投げた知盛が亡霊となる場面。碇(いかり)とともに海底深くに沈んだ知盛。息のできない苦しさと源氏への恨みが舞手さんの所作、顔の表情によって鮮明に伝わり、見ているこちらまで苦しくなってしまいそうでした。また、知盛が怨念へと変わる場面では、その様子はまさに一瞬の出来事。素早い面の早変わりに客席からも歓声が起こっていました。そして物語は、いよいよクライマックスへ。義経と亡霊と化した知盛の立ち合い。序盤で見せた立ち合いよりもさらに激しく、見ているこちらまで火がついてしまいそうな勢いでした。また、激しい立ち合いのため、バサリと一撃を喰らい知盛が倒れこんだとき、勢い余ってズルリと高い舞台から落ちてしまう場面もありました。それほどまでに白熱した戦いに観客は頑張れ!と敵味方関係なくたくさんのエールを送られていました。
大塚神楽団「恵比寿舞」
こちらの恵比寿舞では、恵比寿様の登場の前に市杵島姫(いちきしまひめ)という姫が登場します。この姫は宗像三女神の一人で厳島神社にも祭られており、後に弁才天とも結びつけられる神様だそうです。この神楽の物語では、国譲りの天照大神の使いとして登場し、大国主尊のもとを尋ねるという演出となっていました。そして話は進み、恵比寿様の登場の場面。朗らかな笑顔で釣りが始まります。一投目は謹賀新年という書初めを釣り上げ、お正月ならではの演出を見せてくれました。そして二投目でやっと鯛を釣り上げ、最後は皆さまにも幸せを、と餅まきが行われました。大国主尊・市杵島姫・恵比寿様がたくさんの紅白の餅を撒き、多くのお客さまにお餅が行き渡りました。
さて、今年も始まったばかりですが、さっそく新春神楽で存分に神楽を満喫できましたね。今年もこれをスタートに、たくさん神楽を観て楽しんでいきましょう♪
2010,01,04 Mon 23:10
新着コメント
神楽ファンのみなさん、あけましておめでとうございます。今年も「神楽のぶろぐ」をどうぞよろしくお願いします。さて新年早々、広島市の県立総合体育館武道場で「2010 グリーンアリーナニューイヤーイベント 新春神楽」が行われました。二日間にわたるこのイベント、少しだけご紹介していきます。
まずは筏津神楽団「天の岩戸」から。神楽の始まりと言われる演目で、まさに新しい年、今年の神楽鑑賞のトップに相応しいものではないでしょうか。見どころの一つとして、個性的な神様の役をどう表現するか、という点があると思います。ファンのみなさんに特にわかりやすいのは宇津女命と手力男命でしょうか。前者は柔らかく女性らしい舞、後者は力強く男らしい舞。それぞれ姫舞と鬼舞の基本と言われますので、物語だけでなくどういった舞をしているか、というところに注目するとより面白く感じられると思います。また、岩戸を開いて五人の神様が舞った後に、児屋根と太玉の二人の神様が喜びの舞を舞われたのが特徴的だったように思います。
後野神楽社中「鏡山」は、ファンのみなさんもよくご存知のように、すべての登場人物が女性です。しかし、その中でもちょっとした舞い分けで役柄の個性を表現しておられました。ただ単に女性らしく舞うだけでは、四人全員が登場している場面はみな同じに見えてしまいます。基本の舞にプラスして、岩藤の高慢さ、尾上のしとやかさ、諏訪の意地悪さ、そしてお初の毅然さなどがしっかり表現されており、そこがこの演目をより面白くさせているように感じられました。中でも岩藤は物語が進むにつれ恐ろしい怨念のこもった形相に変化します。その辺の微妙な変化も、面が変わるだけでなく細かい動作や声などで表現されており、舞手さんのこだわりがしっかりと伝わってきました。
宮乃木神楽団「一条戻り橋」も、舞手さんの隅々まで行き届いたこだわりがしっかり味わえる演目でした。もちろんその主役は茨木童子で、鬼、老婆、姫と変化自在な役どころ。本当に妖術でいとも簡単に変化しているような印象を与えてくれます。その一挙一動にみなさんも釘付けになったのではないでしょうか。そしてもう一人、忘れてはならない、というより忘れられないキャラクターが登場。そう、傘売り善兵衛さん。客席から登場し、お客さんからビールやお菓子をもらったり。今までの舞手さんではなく、若い舞手さんに代わられていたようで、客席からは本名で呼ばれていたりもしましたね。さらに途中で人形を取り出して会話をしてみたり、こちらも茨木童子に負けない“怪演”を披露されていました。
以上、一日目三演目のご紹介でした。会場にはカレンダーをはじめ様々な神楽グッズが販売されています。二日目の明日(1月3日)は大塚神楽団、琴庄神楽団、浜田市の石見神楽亀山社中の上演となっています。どうぞみなさん、新春神楽にお越しください!
まずは筏津神楽団「天の岩戸」から。神楽の始まりと言われる演目で、まさに新しい年、今年の神楽鑑賞のトップに相応しいものではないでしょうか。見どころの一つとして、個性的な神様の役をどう表現するか、という点があると思います。ファンのみなさんに特にわかりやすいのは宇津女命と手力男命でしょうか。前者は柔らかく女性らしい舞、後者は力強く男らしい舞。それぞれ姫舞と鬼舞の基本と言われますので、物語だけでなくどういった舞をしているか、というところに注目するとより面白く感じられると思います。また、岩戸を開いて五人の神様が舞った後に、児屋根と太玉の二人の神様が喜びの舞を舞われたのが特徴的だったように思います。
後野神楽社中「鏡山」は、ファンのみなさんもよくご存知のように、すべての登場人物が女性です。しかし、その中でもちょっとした舞い分けで役柄の個性を表現しておられました。ただ単に女性らしく舞うだけでは、四人全員が登場している場面はみな同じに見えてしまいます。基本の舞にプラスして、岩藤の高慢さ、尾上のしとやかさ、諏訪の意地悪さ、そしてお初の毅然さなどがしっかり表現されており、そこがこの演目をより面白くさせているように感じられました。中でも岩藤は物語が進むにつれ恐ろしい怨念のこもった形相に変化します。その辺の微妙な変化も、面が変わるだけでなく細かい動作や声などで表現されており、舞手さんのこだわりがしっかりと伝わってきました。
宮乃木神楽団「一条戻り橋」も、舞手さんの隅々まで行き届いたこだわりがしっかり味わえる演目でした。もちろんその主役は茨木童子で、鬼、老婆、姫と変化自在な役どころ。本当に妖術でいとも簡単に変化しているような印象を与えてくれます。その一挙一動にみなさんも釘付けになったのではないでしょうか。そしてもう一人、忘れてはならない、というより忘れられないキャラクターが登場。そう、傘売り善兵衛さん。客席から登場し、お客さんからビールやお菓子をもらったり。今までの舞手さんではなく、若い舞手さんに代わられていたようで、客席からは本名で呼ばれていたりもしましたね。さらに途中で人形を取り出して会話をしてみたり、こちらも茨木童子に負けない“怪演”を披露されていました。
以上、一日目三演目のご紹介でした。会場にはカレンダーをはじめ様々な神楽グッズが販売されています。二日目の明日(1月3日)は大塚神楽団、琴庄神楽団、浜田市の石見神楽亀山社中の上演となっています。どうぞみなさん、新春神楽にお越しください!
2010,01,02 Sat 16:54
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