7月25日は千代田開発センターで「月一の舞」が行われました。今回のテーマは「大江山への道」ということで、ファンの方にもわかりやすい企画だったと思います。源頼光と四天王、そして大江山の酒呑童子という有名なキャラクターが、4演目にわたって活躍しました。それではご紹介します。
まずはあさひが丘神楽団「山姥」から。頼光四天王の一人、坂田金時誕生の物語です。直接大江山とは関係ないかもしれませんが、この後に上演された中でも、金時の風貌は誰が見ても普通とは違うとお気づきになるでしょう。その辺りも含めた金時の物語、そして頼光の武勇をしっかりと見ることができます。山姥の、ゆっくりと不気味さを漂わせながらの舞に対し、後の金時となる怪童丸は荒々しさの中に幼さ、ヤンチャさを感じる舞。寝込みを襲われながらも、慌てることなく冷静に迎え撃つ頼光の勇姿もカッコよかったですね!そして合戦の中、ひと際印象的だったのは、持っていたマサカリにすべてを賭けるかのような怪童丸の力強さではなかったでしょうか。激しい戦いの後は、悲しい母子の別れの場面が待っています。戦後、芝居や劇の要素を取り入れた新作神楽の魅力の一つがこういった場面ではないかと思いますが、物語に感動を覚えるのもこの演目の特徴ですね。
そして舞台は京の都へ。綾西神楽団「戻り橋」は、大江山の鬼人、茨木童子が大暴れを繰り広げます。冒頭からいきなりその茨木童子が登場し、あっという間に老婆へと変化。その見事な早変わりは誰でもだまされ、そして餌食となってしまうように思わされます。そしてその餌食となってしまうのが…そう、傘売り善兵衛さん。いろんなネタあり、客席との会話ありで楽しませていただきました。中でも茨木童子の化身に、まったく役に立たないような超ミニ傘を差し出したのが最高でした(笑)。そしてこの後は化身の巧みな変身術に釘付け。奏楽さんも一緒になって、面が変わったのと同じように場の雰囲気を変えておられたように思います。上演後に「一生懸命舞いたい」という挨拶もありましたが、最後の合戦はそんな団員さんの思いが強く伝わってきました。渡辺綱とマサカリを持った坂田金時が、茨木童子と一戦を交えます。火がつきそうな激しい舞に、掛け声と大きな身振りで盛り上げる大太鼓の方が印象的でした。
東山神楽団「戻り橋後編」は、茨木童子の左腕を、渡辺綱が切り取る場面からスタート。姫と鬼の面を素早く変える演出と盛り上がる奏楽で、一気に物語の世界へと引きずり込まれます。豪華な刺繍のある衣装で合戦を舞う綱の姿、普通の演目では見られないもので、新鮮な感じがしますね。また鬼が持っている赤い傘も印象的で、この演目ならではの見所が序盤からしっかり楽しめます。戦いの後は場を落ちつかせるかのように、渡辺綱の一人舞があり、そして源頼光が登場。ただ強いだけでなく、実際には武士としてはかなり高い位まで出世した頼光ですが、ここはそんな気高さも感じられる場面だったと思います。いったん落ち着いたかと思えば、次は酒呑童子と茨木童子が白妙を襲う場面に。一つの演目にこれだけたくさんの見所や展開があるのも、新舞の魅力の一つですね。まんまと腕を取り返し、さらに大江山へと逃げ去った鬼たち。最後の頼光と綱の舞は、必ず退治してやる!といった勢いを感じるものでした。
そしていよいよクライマックス。浜田市の上府社中「大江山」が始まりました。怪童丸の面影が残る坂田金時、「戻り橋」で活躍した渡辺綱。そして四天王を従え、鋭い眼差しでひと際凛々しさを感じる源頼光。この三人が登場するだけでも見応えありで、さらに決戦が近づいてくるというワクワク感も覚えました。勇ましい神の舞の後は、やわらかな姫の舞。見られた方も印象的だったと思いますが、両手に長い布を持って自在に操りながらの舞は、思わず「お見事!」と声をかけたくなるほど。そして姫の案内でついに鬼の岩屋へ辿り着いた頼光たち。「うお~」と唸り声を上げながら五匹の鬼が出てくる所は、会場からもどよめきが。頼光と童子の流れるような問答に続いて酒宴が始まりました。気分をよくした鬼は「都で流行りの歌を歌え」とリクエスト。すると綱が手拍子しながら歌い始めたのはなんと「お魚くわえたドラネコ…」のフレーズ!!これには意表を突かれました(笑)。他にもアドリブともとれるような「…酔うた。」という童子のつぶやき?もあり、今まで見たことのない面白い場面になっていました。もちろんこの後に決戦となるんですが、これで一気に場の雰囲気を変えて、壮絶な戦いの舞が繰り広げられます。とてもスケールの大きい神楽を見せていただいたような気がしましたね。
以上、7月の月一の舞「大江山への道」でした。来月は高校生のみなさんによる特集が企画されています。どうぞみなさんお越しください!
まずはあさひが丘神楽団「山姥」から。頼光四天王の一人、坂田金時誕生の物語です。直接大江山とは関係ないかもしれませんが、この後に上演された中でも、金時の風貌は誰が見ても普通とは違うとお気づきになるでしょう。その辺りも含めた金時の物語、そして頼光の武勇をしっかりと見ることができます。山姥の、ゆっくりと不気味さを漂わせながらの舞に対し、後の金時となる怪童丸は荒々しさの中に幼さ、ヤンチャさを感じる舞。寝込みを襲われながらも、慌てることなく冷静に迎え撃つ頼光の勇姿もカッコよかったですね!そして合戦の中、ひと際印象的だったのは、持っていたマサカリにすべてを賭けるかのような怪童丸の力強さではなかったでしょうか。激しい戦いの後は、悲しい母子の別れの場面が待っています。戦後、芝居や劇の要素を取り入れた新作神楽の魅力の一つがこういった場面ではないかと思いますが、物語に感動を覚えるのもこの演目の特徴ですね。
そして舞台は京の都へ。綾西神楽団「戻り橋」は、大江山の鬼人、茨木童子が大暴れを繰り広げます。冒頭からいきなりその茨木童子が登場し、あっという間に老婆へと変化。その見事な早変わりは誰でもだまされ、そして餌食となってしまうように思わされます。そしてその餌食となってしまうのが…そう、傘売り善兵衛さん。いろんなネタあり、客席との会話ありで楽しませていただきました。中でも茨木童子の化身に、まったく役に立たないような超ミニ傘を差し出したのが最高でした(笑)。そしてこの後は化身の巧みな変身術に釘付け。奏楽さんも一緒になって、面が変わったのと同じように場の雰囲気を変えておられたように思います。上演後に「一生懸命舞いたい」という挨拶もありましたが、最後の合戦はそんな団員さんの思いが強く伝わってきました。渡辺綱とマサカリを持った坂田金時が、茨木童子と一戦を交えます。火がつきそうな激しい舞に、掛け声と大きな身振りで盛り上げる大太鼓の方が印象的でした。
東山神楽団「戻り橋後編」は、茨木童子の左腕を、渡辺綱が切り取る場面からスタート。姫と鬼の面を素早く変える演出と盛り上がる奏楽で、一気に物語の世界へと引きずり込まれます。豪華な刺繍のある衣装で合戦を舞う綱の姿、普通の演目では見られないもので、新鮮な感じがしますね。また鬼が持っている赤い傘も印象的で、この演目ならではの見所が序盤からしっかり楽しめます。戦いの後は場を落ちつかせるかのように、渡辺綱の一人舞があり、そして源頼光が登場。ただ強いだけでなく、実際には武士としてはかなり高い位まで出世した頼光ですが、ここはそんな気高さも感じられる場面だったと思います。いったん落ち着いたかと思えば、次は酒呑童子と茨木童子が白妙を襲う場面に。一つの演目にこれだけたくさんの見所や展開があるのも、新舞の魅力の一つですね。まんまと腕を取り返し、さらに大江山へと逃げ去った鬼たち。最後の頼光と綱の舞は、必ず退治してやる!といった勢いを感じるものでした。
そしていよいよクライマックス。浜田市の上府社中「大江山」が始まりました。怪童丸の面影が残る坂田金時、「戻り橋」で活躍した渡辺綱。そして四天王を従え、鋭い眼差しでひと際凛々しさを感じる源頼光。この三人が登場するだけでも見応えありで、さらに決戦が近づいてくるというワクワク感も覚えました。勇ましい神の舞の後は、やわらかな姫の舞。見られた方も印象的だったと思いますが、両手に長い布を持って自在に操りながらの舞は、思わず「お見事!」と声をかけたくなるほど。そして姫の案内でついに鬼の岩屋へ辿り着いた頼光たち。「うお~」と唸り声を上げながら五匹の鬼が出てくる所は、会場からもどよめきが。頼光と童子の流れるような問答に続いて酒宴が始まりました。気分をよくした鬼は「都で流行りの歌を歌え」とリクエスト。すると綱が手拍子しながら歌い始めたのはなんと「お魚くわえたドラネコ…」のフレーズ!!これには意表を突かれました(笑)。他にもアドリブともとれるような「…酔うた。」という童子のつぶやき?もあり、今まで見たことのない面白い場面になっていました。もちろんこの後に決戦となるんですが、これで一気に場の雰囲気を変えて、壮絶な戦いの舞が繰り広げられます。とてもスケールの大きい神楽を見せていただいたような気がしましたね。
以上、7月の月一の舞「大江山への道」でした。来月は高校生のみなさんによる特集が企画されています。どうぞみなさんお越しください!
2010,07,26 Mon 23:39
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中川戸神楽団「板蓋宮」は、奈良県明日香村にその舞台があります。歴史の授業で習った方も多くおられると思いますが、645年に中大兄皇子が蘇我入鹿を討ったクーデター、乙巳の変(いっしのへん)、そして大化の改新。これらがこの演目の元になっています。台詞の中には歴史のテストに出てきそうなキーワードがあったりして、歴史好きな方にはより楽しめる神楽かもしれませんね。さて「板蓋宮」と言えばファンのみなさんもよくご存知のように、ホール神楽の先駆け、あるいは神楽ブームの火付け役の代表的な演目です。今回のイベントでは舞台にスクリーンという新しい試みがされましたが、そこに映し出された迫力ある鬼の面を見ながら、「これからは新演目だけではなく、神楽の見せ方、楽しませ方も進化していくのかもしれない」という思いを抱きました。
そして原田神楽団「大江山」、これはもちろん京都府にある大江山が舞台です。紹介映像では山中に残された「鬼の足跡」「頼光の腰掛岩」など史跡の紹介もありました。神楽の中で大江山に向かう場面、いつものように舞う頼光たちが、険しい山道を踏み分けて岩屋に登っているような感覚を覚えた方もいらっしゃったことでしょう。この「大江山」という演目は比較的新しいもののようで、「塵倫」や「鍾馗」などと違って昔からある石見神楽の演目ではありません。それだけに神楽団ごとにバラバラと言っていいほど違いがあります。もともとこの大江山の酒呑童子にはいくつもの伝説があり、その中でどのように神楽の演目としてまとめたかで何通りものパターンが出来上がると思います。伝説の地を訪ねたり、あるいは研究することによってさらに楽しみ方が広がることでしょう。
大塚神楽団「悪狐伝」は先に上演された梶矢神楽団「山伏」と同じく、金毛白面九尾の狐が登場します。しかし「山伏」で福島県の安達ヶ原が紹介されたのに対し、この「悪狐伝」は栃木県の那須野ヶ原が舞台となります。これは「山伏」という演目が、安達ヶ原の鬼婆と那須野ヶ原の悪狐の物語を一緒にしているためで、ここが「悪狐伝」との大きな違いとなります。それぞれの地を訪ねればその違いは一目瞭然ですね。さて九尾の狐に負けず劣らずの活躍、十念寺の珍斉和尚さん。きっと楽しみにされていた方も多かったことでしょう!一言しゃべれば客席がドッと沸き、また玉藻前や奏楽さんも苦笑い。実際に十念寺というお寺はいくつかあるそうですが、この珍斉和尚のモデルとなった人物がいたかどうかは定かではありません。ちょっと想像もつかないですよね(笑)。
そして最後は上河内神楽団「紅葉狩」。舞台となった信州戸隠山は長野県にあります。神代の昔に手力男命が投げ捨てた大岩がこの地に落ちて戸隠山となった、というエピソードはこれまで何度かご紹介しましたが、さて「天の岩戸」の舞台と言えば?いくつかの説はありますが、代表的なのはやはり宮崎県の高千穂でしょうね。ということは、手力男命は宮崎から長野まで岩戸を放り投げたことになりますね!さすが力持ちの神様です…。ちょっと話がそれてしまいましたが、鬼女伝説だけでなく、こういう物語もあるくらい、この戸隠山は昔から神秘の山として知られていたんでしょうね。そして山に入り込んでしまった者は紅葉の錦、鬼女の美しさに惑わされて二度と戻らなくなってしまった。豪華絢爛な衣装に身を包み、ドライアイスが立ち込める中でゆったりと舞う鬼女の姿。あるいは一瞬の内に姫から恐ろしい鬼へと変わる姿。伝説の神秘的な魅力を見事な舞と演出で見せてくださいました。
RCC神楽スペシャル、伝説の地を訪ねて。ほとんどの演目がみなさんにお馴染みのものだったと思いますが、こういった企画で改めて見てみると、随分と新鮮な印象を受けられたのではないでしょうか。神楽に限らず、「わからないから面白くない」「わかるから面白い」と感じることは多々あると思います。ファンのみなさんがご自身だけでいろいろ調べようというのはそう簡単なことではないかもしれませんが、今回のイベントでわかったことや新しい発見がきっとあったはず。新しい演目、派手な場面を求めるだけでなく、神楽や伝説に興味を持っていただければいいなと感じた、今回のイベントでした。
2010,07,20 Tue 22:10
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KAGURA FAN さん、コメントありがとうございます。
2階席だと舞手さんの顔とか面がよく見えないですよね。
スクリーンが役立ったようですね!
これから活用方法がいろいろ考えられてくるかもしれません。
またコメントお願いします。
2階席だと舞手さんの顔とか面がよく見えないですよね。
スクリーンが役立ったようですね!
これから活用方法がいろいろ考えられてくるかもしれません。
またコメントお願いします。
| 特派員Y | EMAIL | URL | 10/07/22 23:18 | QQdyFAoo |
当日2階席で鑑賞しました。
スクリーンでのアップはいいですね!
演目の解説もわかりやすくでよかったですよ!
ナレーションと写真での紹介でしたが、動画もあればもっとよかったかも?
伝説の地をめぐるツアーも魅力的ですね!
今後の展開に期待しています!
スクリーンでのアップはいいですね!
演目の解説もわかりやすくでよかったですよ!
ナレーションと写真での紹介でしたが、動画もあればもっとよかったかも?
伝説の地をめぐるツアーも魅力的ですね!
今後の展開に期待しています!
| KAGURA FAN | EMAIL | URL | 10/07/21 11:59 | PF8WiEZ. |
7月18日は広島市の広島国際会議場フェニックスホールで「RCC神楽スペシャル」が行われました。今年のテーマは「伝説の地を訪ねて」ということで、上演された神楽それぞれの物語の舞台となった地を、ステージに設置されたスクリーンで紹介するという試みがなされました。いつもは上演前のあらすじだけですが、それに映像を加えることによってみなさんに物語がよりわかりやすくなってのではないかと思います。今までおぼろげだったところが詳しくわかれば、またさらに神楽が面白く感じるという効果もあったことでしょう。神楽イベントに慣れ親しんだ方でも、今回のステージはかなり新鮮だったのではないでしょうか。また神楽の上演中には、その模様をビデオ収録されていた(有)キャビネットさんの映像がそのスクリーンに映し出されていました。特にアップの映像などは、後ろや2階席のお客さんにもよく見えて便利だったのではないでしょうか?? それでは演目のご紹介です。
まず最初の儀式舞は中川戸神楽団「神迎へ」。四人の舞手さんによる厳かな舞が淡々と繰り広げられます。そして儀式舞独特の楽のリズムに神楽歌。時折フワリと舞う袖も、儀式舞ならではの風情が感じられると思います。そして神楽を構成する大事な要素である陰陽五行思想が色濃く反映されているのも、こういった舞の特徴ですね。舞手さんの動きを見ても、右から左へ、左から右へ…ではなく、東から南へ、春から夏へ。我々日本人の祖先が大事にしてきた思いや願い、それらが伝統芸能という形でしっかりと今日まで伝承されているということ。まさに神楽は地域にとって宝物と言えると思います。こういった魅力があるからこそ、文明が進んだ現在でさえも、神楽は多くの人を魅了するのだと改めて感じました。
そして富士神楽団「滝夜叉姫」。福島県いわき市にある恵日寺(えにちじ)は、天慶の乱で敗れた平将門の三女である瀧姫の物語が残されています。一族でただ一人生き残った瀧姫は、この寺に辿り着き、八十余歳の生涯を閉じるまで一族の冥福を祈り続けたと伝えられているそうです。この神楽でも、鬼と成り変わってはいますが、やはり全編を通じて父の無念を晴らしたいという滝夜叉姫の思いが強く感じられます。恨みを晴らしたいが女の自分には力が足りない…そんなか弱い姫の様子、そして妖術を授かり鬼と化した様子、舞い方はもちろん細かい面の早変わりでも見事に演出されていたと思います。その変化の様子も、大きく映し出されたスクリーンでみなさんしっかりとご覧いただけたのではないでしょうか。
続いて梶矢神楽団「山伏」も、福島県がその舞台として紹介されました。こちらは恐ろしい安達ヶ原の鬼婆の物語です。旅の女を自分の娘とは知らずに殺めてしまった老婆は、気が狂ってしまい、ついには旅人を襲う鬼婆となってしまいます。上演前の紹介映像では、江戸時代に描かれたというこの伝説の絵巻物も登場し、その残酷な場面もリアルに描写されているところは、思わずぞっとされた方も多かったことでしょう。この「山伏」という演目は、そういった場面はありません。しかし狐の台詞には、食い荒らした旅人の骨が住処に散乱しているという部分もあり、ここで先ほどの映像が思い起こされてまたゾゾっとするようなところもありました。ですがやはり、この演目の最大の見所は台詞や歌の掛け合いでしょうね。山伏と剛力のコミカルな掛け合いもみなさん楽しまれたことと思います。
以上、前半3演目のご紹介でした。「その2」で残りの4演目をご紹介しようと思います。
まず最初の儀式舞は中川戸神楽団「神迎へ」。四人の舞手さんによる厳かな舞が淡々と繰り広げられます。そして儀式舞独特の楽のリズムに神楽歌。時折フワリと舞う袖も、儀式舞ならではの風情が感じられると思います。そして神楽を構成する大事な要素である陰陽五行思想が色濃く反映されているのも、こういった舞の特徴ですね。舞手さんの動きを見ても、右から左へ、左から右へ…ではなく、東から南へ、春から夏へ。我々日本人の祖先が大事にしてきた思いや願い、それらが伝統芸能という形でしっかりと今日まで伝承されているということ。まさに神楽は地域にとって宝物と言えると思います。こういった魅力があるからこそ、文明が進んだ現在でさえも、神楽は多くの人を魅了するのだと改めて感じました。
そして富士神楽団「滝夜叉姫」。福島県いわき市にある恵日寺(えにちじ)は、天慶の乱で敗れた平将門の三女である瀧姫の物語が残されています。一族でただ一人生き残った瀧姫は、この寺に辿り着き、八十余歳の生涯を閉じるまで一族の冥福を祈り続けたと伝えられているそうです。この神楽でも、鬼と成り変わってはいますが、やはり全編を通じて父の無念を晴らしたいという滝夜叉姫の思いが強く感じられます。恨みを晴らしたいが女の自分には力が足りない…そんなか弱い姫の様子、そして妖術を授かり鬼と化した様子、舞い方はもちろん細かい面の早変わりでも見事に演出されていたと思います。その変化の様子も、大きく映し出されたスクリーンでみなさんしっかりとご覧いただけたのではないでしょうか。
続いて梶矢神楽団「山伏」も、福島県がその舞台として紹介されました。こちらは恐ろしい安達ヶ原の鬼婆の物語です。旅の女を自分の娘とは知らずに殺めてしまった老婆は、気が狂ってしまい、ついには旅人を襲う鬼婆となってしまいます。上演前の紹介映像では、江戸時代に描かれたというこの伝説の絵巻物も登場し、その残酷な場面もリアルに描写されているところは、思わずぞっとされた方も多かったことでしょう。この「山伏」という演目は、そういった場面はありません。しかし狐の台詞には、食い荒らした旅人の骨が住処に散乱しているという部分もあり、ここで先ほどの映像が思い起こされてまたゾゾっとするようなところもありました。ですがやはり、この演目の最大の見所は台詞や歌の掛け合いでしょうね。山伏と剛力のコミカルな掛け合いもみなさん楽しまれたことと思います。
以上、前半3演目のご紹介でした。「その2」で残りの4演目をご紹介しようと思います。
2010,07,19 Mon 00:11
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